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カモノハシがカンガルーから逃れた戦術〜日経サイエンス2010年2月号より

水に活路を見いだした

 

 現在の地球上に,卵を産む哺乳動物は2種しかいない。カモノハシとハリモグラだ。かつてこれら「単孔類」という奇妙な動物たちはオーストラリアを支配していたが,7100万年前~5400万年前に侵入してきた有袋類のせいで大半が絶滅した。最近の研究によると,カモノハシとハリモグラは祖先が水中に活路を求めたおかげで生き延びたらしい。
 有袋類はアジアからアメリカ,南極大陸を経てオーストラリアにたどり着いた。この過程で各地の動物と競い合ってきたので,オーストラリアに着いたときには生存競争に打ち勝つ力が養われていて,これが同大陸での圧倒的な繁栄に結びついたのだと,オーストラリア国立大学(キャンベラ)の進化生物学者フィリップス(Matthew Phillips)はいう。「そこで疑問が生じる。他の単孔類は絶滅したのに,なぜカモノハシとハリモグラは有袋類に負けずに生き延びたのか?」
 フィリップスらによると,これらが有袋類の侵入をしのげたのは,祖先が有袋類の追いかけてこられないところ,水中に逃げ場を見つけたからだ。有袋類は生まれてから何週間も母親の袋のなかで乳を吸い続ける必要があるので,母親が長時間水につかっていると,赤ん坊は溺れてしまう。

 

ハリモグラも割と最近まで水陸両生

 この説は水陸両生のカモノハシに関しては妥当に思える。しかしハリモグラは陸生で,水にはすまない。フィリップスらは遺伝子解析によってこの謎を解いた。ハリモグラがカモノハシから分かれたのはたった1900万~4800万年前であることを突き止めたのだ。つまり,ハリモグラは最近まで水陸両生の祖先を持ち,後に陸だけにすむようになったと考えられる。実際,ハリモグラにはかつて水陸両生のカモノハシに似た祖先がいたことを示す特徴がいくつかある。流線形の体,後肢が後方に伸びていて舵として働きそうなこと,胚の段階ではアヒルのくちばしに似た形の口先が発達することなどだ。
 古い単孔類の化石を調べた以前の研究では,カモノハシとハリモグラが分岐したのは1億1000万年以上前だと考えられ,今回の遺伝子解析結果が示す年代よりもずっと昔だった。だがフィリップスらはそれら初期の化石439体を調べ直し,ハリモグラは古いカモノハシ化石よりも,後に進化したカモノハシと似ていることを発見した。こうして再構成した系統樹は遺伝子解析の結果(米国科学アカデミー紀要電子版9月23日号に報告)と一致する。「遺伝子解析と化石は同じストーリーを物語っているようで,この仮説は有望だ」というのは,同研究には加わっていないアメリカ自然史博物館(ニューヨーク)の哺乳類学者ベック(Robin Beck)だ。

 

捨てたものではない原始的特徴

 ハリモグラが水から陸に上がったことを示す化石はいまのところ見つかっていない。単孔類の化石は非常に乏しいとベックはいう。しかし,オーストラリアには2000万~2500万年前の化石を産出する現場がいくつかあり,この年代はハリモグラが進化したと研究チームが考えている時期にほぼ重なる。「運がよければ,将来これらの現場から,カモノハシからの進化途上にある中間的ハリモグラの化石が見つかるだろう」とベック。
 単孔類は卵を産むほか,ワニやトカゲといった爬虫類に似た肩の作りなど,遠い祖先から受け継いだ原始的特徴があり,これらは単孔類が下等な動物である印とされることが多い。だが,今回の新発見は,こうした原始的特徴の利点を見直す契機になりそうだ。例えば爬虫類に似た肩は速く走るのには都合が悪いが,前肢を強く踏ん張ることができ,大きな肩と腕を使ってハリモグラなら泥を掘りやすく,カモノハシなら水中を進みやすくなる。「多くの爬虫類もこうした“原始的”特徴を持つが,種の数からいえば,どの哺乳動物よりも栄えている」とフィリップスはいう。

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