地球の中心と同じ超高圧・超高温を達成!〜日経サイエンス2010年6月号
地球コアを構成する物質を実験室で合成することが可能に
その結晶構造や密度の測定から謎多きコアの解明が進むと期待
東京工業大学,海洋研究開発機構,高輝度光科学研究センターの共同研究グループは,地球の中心部分(コア)に匹敵する364万気圧・5500℃という超高圧・高温状態を実験室内で達成することに世界で初めて成功した。これにより,コアを構成する物質を人工的に合成することが可能になった。
例えばグラファイトに大きな圧力をかけると結晶構造が変わってダイヤモンドとなり,性質もまったく違うものとなる。これと同じように化学組成が同じでも,コアでは常温常圧とは異なる結晶構造になっているはずだ。コアを構成する物質がどのような性質をもつかを突き止めるには,それを人工的に作り出して,結晶構造を解析するのが第一歩となる。
地球コアは深さ2900~5200kmまでがどろどろに溶けた外核,5200kmから中心部分の6400kmまでが固体の内核となっていることが,地震波などの観測から70年以上も前から知られている。地震波の伝わり方や太陽系に存在する物質などから,コアの主成分は鉄と考えられているが,液状の外核は鉄だけではないこともわかっていた。しかし“その他”の元素については,50年も前に5つの元素に絞られたきり,いまだに不明。化学組成が決まっていないため,融点や熱拡散率などもわからないままだ。
実験チームはまず純鉄をサンプルとして,コアの環境に置き,その結晶構造を大型放射光施設SPring-8からの放射光を使って解析した。今後密度を精度よく測定することにより地震波の観測データと直接比較することが可能になる。コアの化学組成を絞り込むことで,熱特性や地震波の異方性などコアをめぐるさまざまな謎が芋づる式に解けていくという。
今回の364万気圧・5500℃実現のカギとなったのは,サンプルに圧力をかけるためのダイヤモンドのカットの仕方。ダイヤのとがった方を少し切って平らな面を作り,この面でサンプルを挟む。カットデザインが悪いと,ダイヤといえども加圧時に割れてしまう。カットの形を工夫することで,364万気圧にも耐えられるようになった。