「はやぶさ」6月帰還へ〜日経サイエンス2010年6月号
小惑星「イトカワ」のサンプル採取を行った探査機が
数多くの試練を乗り越え,オーストラリアの砂漠に戻ってくる
宇宙航空研究開発機構は3月27日,小惑星「イトカワ」のサンプル採取を行って地球への帰途にある探査機「はやぶさ」(下はイメージ)について,計画通り6月に地球上空に到達する軌道に乗せることに成功したと発表した。サンプルを回収したカプセルは,地球から6万kmの宇宙空間で本体から分離,大気圏突入後,オーストラリアの砂漠地帯にパラシュートで落下させる。カプセル回収に成功し,小惑星のサンプルが得られれば,月以外の天体表面から持ち帰られた初のケースとなる(彗星の塵は持ち帰られた例がある)。
「はやぶさ」は2003年5月,鹿児島県内之浦からM5ロケットで打ち上げられ,05年8月にイトカワとランデブー,上空で詳しい調査を行った後,11月にイトカワ表面に舞い降り,サンプル回収作業を行った。しかしイトカワ離脱後,化学エンジン(燃料と酸化剤を反応させて高温高圧のガスを噴射する)の燃料が漏れてガスが噴出,姿勢に異常を来し,音信を絶った。その後,通信が回復がしたが,予定していた2007年6月の帰還は大幅に遅れた。しかも綱渡りの運用が続いた。「はやぶさ」は惑星間航行用に4台のイオンエンジン(ガスを電離して加速,噴射する新型エンジン)を持つが,打ち上げ直後に1台が動作不安定で休止,07年4月に2台目が機器の劣化で運用から外れ,09年には3台目が停止してしまった。
そこで運用チームは,トラブルで休止していた2台のエンジンの正常機能部分をうまく組み合わせて1台のエンジンとして運用するなどの工夫で推力を確保,3月27日,イオンエンジンを用いた軌道変換を完了させることに成功した。今後,地球に1500万kmまで近づいたときから最終段階の軌道制御を始める。落下したカプセルはビーコンを送信するので,これを手がかりにヘリコプターで拾いに行く。