数学的能力の男女差は…〜日経サイエンス2012年3月号より
生まれつきの違いは問題ではなさそうだ
ハーバード大学前学長のサマーズ(Lawrence Summers)は2005年,科学技術分野のトップに女性がいないのは男女の生まれつきの差が原因だというような発言をして辞職に追い込まれたが,そのとき引用されたのが「男性は女性よりもばらつきが大きい」という仮説だ。それによると,平均的には男女に数学的能力の差はないが,男性は能力のばらつきが大きい。つまり,男性は数学につまずく人の割合も大きいが,脳の発達の仕方か何かが原因で,数学に秀でた男性の割合も同じくらい高いという。
数学コンテストの勝者がほとんど男子であることや,一流大学の数学科は女性よりも男性が圧倒的に多いのは,この仮説で説明できると考えられてきた。しかしその後,このばらつき仮説が科学的に検証され,説得力に乏しいことが明らかになった。
52カ国の数学成績データを解析
これまでで最も意欲的な研究は,ウィスコンシン大学ホワイトウォーター校の数学教授ケイン(Jonathan Kane)と同マディソン校の腫瘍学教授メルツ(Janet Mertz)によるものだ。彼らは国際数学オリンピックなど一流コンテストでの点数など,52カ国について数学の成績データを解析した。なかでも特に分散(点数のばらつき)を詳しく調べた。
その結果,2つのパターンが現れた。いくつかの国では男性も女性も分散は基本的に同程度だが,その他の国では女性の分散に対する男性の分散の比が国によって大きく異なった。この比の値は0.91から1.52の範囲内だった(比が1だと男女の分散は等しく,1より大きい場合は男性の点数のばらつきが女性よりも大きいことを意味する)。この結果はNotices of the American Mathematical Society誌1月号に報告されている。
男性の分散が女性を上回る国もあれば下回る国もあり,「国によってばらばらだということは,人間の遺伝的特徴が国ごとに異なるとでも考えない限り,遺伝的な差はないことを意味している」とメルツは主張する。「男女の成績差の大半は,社会的・文化的要因を反映しているに違いない」。(続く)