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神経新生を支える遺伝子〜日経サイエンス2010年8月号

脳の毛細血管の太さを調節する因子が重要らしい

 

 大人でも脳でニューロンが新しく作られていることが明らかになってからすでに10年以上になる。適度な運動や学習が,新生ニューロンの生き残りに大事なこともマウスなどでの研究からわかってきているが(T. J. ショア「鍛えるほど頭はよくなる 新生ニューロンを生かすには」日経サイエンス2009年6月号),その具体的な分子メカニズムはほとんど不明だった。東北大学の大隅典子教授らのグループは,マウスでの研究から,脳内を走る毛細血管の太さを調節することを介して,新しいニューロンの数がコントロールされていることを発見した。Stem Cells誌5月号の表紙を飾った。 
 成体の脳で特にニューロン新生が活発なのは「海馬歯状回」と呼ばれる部分で,ここは記憶の中枢とされる場所だ。この海馬歯状回でのニューロン新生の異常と行動の異常に関連があることも明らかになっている。 
大隅教授らはまず,成体マウスの海馬歯状回でエフリンA5(Ephrin-A5)という遺伝子が働いているかどうかを調べた。すると,ニューロンだけでなく,グリア細胞の一種である「アストロサイト」でも盛んに働いていることがわかった。グリア細胞は脳にあるニューロン以外の細胞の総称で,ニューロンを支える役目がある。 
 エフリンA5タンパク質は,アストロサイトのなかでも毛細血管を包み込む足のような部分に集中していた。エフリンA5タンパク質を作れないように遺伝子操作したマウスでは,ニューロンの数が明らかに少ないうえに,毛細血管が異常に細くなっていた。アストロサイトのエフリンA5タンパク質は,毛細血管の内皮細胞と結合して,内皮細胞に情報を送ることが知られている。
 こうしたことから,毛細血管の太さ,つまり脳での血流がエフリンA5を介して変わることが,ニューロン新生に重要であることが示唆された。エフリンA5遺伝子は,以前に大隅教授らの研究から大脳の発生に関連していることが判明していた。一般に,遺伝子は“使い回し”をされることが多いので,胎仔で脳ができるときに働く遺伝子が成体でのニューロン新生にも関係しているかもしれないと考え,この遺伝子に注目したという。

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