SCOPE & ADVANCE

リチウム電池の安全性〜日経サイエンス2010年10月号より

電気自動車向け電池の試験が進んでいる


 近く発売される日産自動車の「リーフ」やゼネラル・モーターズの「シボレー・ボルト」など,電気自動車はリチウムイオン電池を使う。だが,ノートパソコンに内蔵された初期のリチウムイオン電池が発火した事故を覚えている人も多いだろう。電気自動車向けのリチウム電池は大丈夫だろうか。衝突しても発火しないだろうか?
 米国立サンディア研究所の電池誤用試験研究室は米国における事実上の自動車用電池試験場になっている。電池に熱を加える,衝撃を与える,穴を開ける,押しつぶすといった損傷を与え,衝突時や極端な動作状態での安全性を検証している。
 リチウムイオン電池が初めてノートパソコン向けに登場したときは「活物質のエネルギーが非常に高く,かなりのトラブルを生じる例があった」というのは,電池誤用試験研究室のチームリーダーであるオレンドルフ(Chris Orendorff)だ。主な原因は「熱暴走」だった。過熱によって化学反応が起こり,電池の発火や爆発につながる恐れがある。
 自動車を極端な運転状態にしてもそうした問題が生じるとは考えにくいが,衝突が原因で熱暴走が起こる可能性はある。また,急激な過充電,例えば充電中に雷が充電端子に落ちた場合にも,熱暴走が生じる恐れがある。

 

電極材料などの工夫も

 ちょっとした化学的な工夫によって,過熱や爆発を起こしにくい電池にすることが可能だ。性能と安全性の点で「いくつかの異なる化学的組み合わせがなおも検討されている」とオレンドルフはいう。
 例えばサンディア研究所は正極にリン酸鉄リチウムを用いる設計の検討を続けている。この材料は温度上昇がなく,使用中にほとんど劣化しないからだ。また,チタン酸リチウムを負極とする電池は高温下で運転しても過熱しにくいと考えられている。最高の安定性を目指して,別のリチウム塩を含む電解質の試験も続いている。
 メーカーはさまざまな機械的安全構造も試している。ノートパソコン用リチウム電池の熱暴走を防ぐために開発された対策に似たもので,不適切な反応に伴って蓄積したガスを排出する通気孔や,活性化しすぎた電池を切り離すブレーカーのような電流遮断器などがある。
 電気自動車向け高性能電池は長年にわたって実験が重ねられ,ここへきて製造・試験が加速してきた。「2009年アメリカ復興・再投資法」の下で多額の研究費が充当されたこともある。サンディア研究所には最近,より多くの電池を短期間に試験できるよう,設備改修費として420万ドルがついた。
 もちろん,サンディア研究所もメーカーも,考えうる危険をすべて回避したいと考えているが,まったく危険のない自動車はないということを消費者は忘れているとオレンドルフは指摘する。リチウムイオン電池は標準的な鉛蓄電池よりも発火する確率が高いかもしれないが,「その可能性は60リットルのガソリンをのせて走る通常の自動車と比べればはるかに小さい」。

サイト内の関連記事を読む