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夢の動きを追う目の動き〜日経サイエンス2010年10月号より

レム睡眠中の眼球運動の理由が判明

 急速眼球運動(REM)を伴うレム睡眠の間,私たちの眼球は眼窩のなかでせわしなく動いている。何十年間も説明がついていない現象だ。いくつかの可能性は指摘されている。まぶたの内側を潤滑するため,脳を暖めるため,いや脳幹からの刺激に反応して動いているのだ──などなど。
 Brain誌6月号に掲載された研究によると,最も妥当な説明は「見ている夢の像を追うために眼球がそちらに視線を向けている」というものだ。私たちが目覚めて動き回っている間に周囲の環境に反応して視線を動かしているのと同じだという。
 この研究にあたって,パリにあるピチエ・サルペトリエール病院の神経科学者たちは「レム睡眠行動障害」という病気の患者に目を向けた。これらの人々は通常とは違って,眠って夢を見ている間も身体の自由が利き,身体を動かして夢を“実演”する。
 蹴る,叫ぶ,つかむ,手を伸ばす,よじ登る,飛び跳ねるといった具合で,研究者はそれをもとに,ふつうは夢を見ている本人の頭のなかだけにあるものを観察できる。「他人の夢を覗き込む窓だ」と,今回の論文の共著者で睡眠を専門とする神経学者のアルヌルフ(Isabelle Arnulf)はいう。「映画の字幕を読むようなもの」。
 レム睡眠行動障害の56人と正常な被験者17人の睡眠時の眼球運動を電極を用いて記録するとともに,行動をビデオに録画した。そして映像を逐一解析して,行動と視線が一致しているかどうかを調べた。
 明らかに一致している。レム睡眠行動障害患者の場合,全時間の90%で,視線は夢に伴う身体の動きと同期していた。自分の左側にいる人にキスしている夢を見ている被験者は視線を左側に向けていた。はしごを登っている夢を見た別の被験者は,視線を上下に繰り返し動かして,どれくらい登ったかを確認した。さらに別の人は,ライオンに追いかけられる夢を見て,肩越しに視線を向けた。
 急速眼球運動が本当に不規則な動きなら,これほど夢のなかの行動と一致するはずはないと,研究チームは結論づけている。どうやら,こと夢の神経科学に関しては,自分の目を信じるのが最適らしい。

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