どでかい超新星の爆発的デビュー〜日経サイエンス2010年12月号より
新タイプの超新星が発見され,巨星の最期に関する理論に再考を迫っている
太陽は50億年ほどたつと薄暗い白色矮星になって穏やかに一生を終えるが,より大きな恒星は爆発する。質量が太陽の10倍以上ある星は勢いよく重力崩壊し,超新星爆発を起こす。宇宙で最もエネルギッシュな現象だ。
だが,もっと大規模な天体爆発がありうるのではないかと,かねて疑われてきた。「対不安定型超新星」と呼ばれるもので,爆発のエネルギーが通常の超新星の100倍に達する。昨年,2つの研究チームがついにその例を発見した。宇宙における大きさの限界を一気に拡大する発見だ。
脈動的なタイプ
恒星はみな,重力と圧力が釣り合っている。星の中心部で水素などの軽い元素が核融合反応を起こすと,反応によって生まれた光子が外向きの力を生じ,内側に向かう重力に対抗する。より大きな星では中心部の圧力が高いので酸素や鉄など重い元素も核融合を起こし,より多くの光子を生じる。
だが,星の質量が太陽の100倍を超えると,事態が少し変わってくる。酸素の核融合が始まるのだが,この反応で生じる光子のエネルギーは非常に高いため,光子は自然に電子・陽電子の対に変化する。こうして光子がなくなるので外向きの圧力も働かず,星は崩壊し始める。
その後に起こる現象は2通りある。1つは,崩壊がさらなる圧力を生んで酸素の核融合に再び火をつけ,エネルギーを突発させる。突発によって星の表層部は吹き飛ばされるが,完全な超新星爆発には至らない。この現象を周期的に繰り返す(「脈動的」な対不安定型超新星と呼ばれる)うちに星はしだいに質量を失って,やがては通常の超新星爆発によって最期を迎える。カリフォルニア工科大学のクインビー(Robert M. Quimby)が率いる研究チームは,この例を特定して論文を投稿中であると発表した。
正真正銘の対不安定型も
一方,星がとても大きい場合(質量が太陽の130倍を超える場合)には,崩壊が急速に進み,慣性も強くなるため,酸素の核融合によっても崩壊を止められなくなる。狭い空間に大量のエネルギーが生まれるので,ついにはすべてが爆発で吹き飛ばされて,何の残骸も残らない。これが完全な対不安定型超新星だ。
イスラエルのレホボトにあるワイツマン科学研究所の天文学者ガルヤム(Avishay Gal-Yam)の研究チームは最近のNature誌にその例を初めて発見したと報告した。「これこそ本当のでかいやつだ」という。
以前は,近傍銀河の巨大恒星は死ぬ前に質量の多くを捨て去ってしまうので対不安定型の超新星爆発は実質的に起こらないと,大半の天文学者が主張していた。しかし,この宇宙最大の爆発が華々しく登場したことで,従来の見方は再考されつつある。