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宇宙で働く微生物〜日経サイエンス2011年1月号より

鉱物抽出に使われる微生物は宇宙でもお役立ち

 

 鉱石から金や銅,ウランなどの金属を取り出すのに微生物が使われているが,最近の研究によると,宇宙でも同様の“バイオマイニング”を利用できそうだ。月や火星で細菌を使って酸素や栄養分,鉱物を抽出し,将来の居住基地で利用する。
 世界の銅の1/4以上は微生物によって鉱石から取り出されている。岩石と化学的に結合している物質を微生物が分離するのだ。英オープン大学の地球微生物学者オルソン=フランシス(Karen Olsson-Francis)とコッケル(Charles S. Cockell)はこうした微生物を地球以外の惑星でも使えると考えた。「宇宙での自給自足が可能になるだろう」とコッケルはいう。
 オルソン=フランシスらはさまざまなシアノバクテリア(藍藻)を月や火星のレゴリス(表面を覆っているふわふわの岩くず)に似た条件にさらして実験した。これらの光合成細菌は寒くて非常に乾燥した南極のマクマード・ドライバレーから,暑く乾いたチリのアタカマ砂漠まで,地球上で最も極端な環境にも適応しているので,宇宙の過酷な環境でも生きられるかもしれない。
 微生物の底力を試すため,数種の微生物を300km上空の地球低軌道まで打ち上げて,順に真空,低温,高温,放射線にさらした。その後,南アフリカの斜長岩(月の高地のレゴリスに似ている)やアイスランドにある火山の玄武岩(月と火星のレゴリスに近い)など,さまざまな種類の岩石上で水を与えて育てた。
 どの微生物も,岩石からカルシウム,鉄,カリウム,マグネシウム,ニッケル,ナトリウム,亜鉛,銅を抽出した。だが,水田で天然の肥料として使われているアナベナ・シリンドリカ(Anabaena cylindrica)という藍藻の成長が最も速く,ほとんどの元素を抽出し,月と火星の条件のいずれにも耐え,宇宙で使うのに最適であると考えられた。詳細は最近のPlanetary and Space Science誌に報告。
 バイオマイニングの利点は多いとコッケルはいう。化学物質を使って地球外レゴリスから鉱物を抽出することはできるものの,微生物を使うほうが抽出速度がずっと速い。また純粋な化学反応で抽出するには大量のエネルギーが必要になるので,初期の宇宙基地ではまかなえないだろう。
 「シアノバクテリアを利用するバイオ技術を開発しない限り,月や火星への移住は無理だろう」と宇宙生物学者ブラウン(Igor Brown)はいう(ブラウン本人は今回の研究には加わっていない)。将来,宇宙に移住するのは人間だけではないようだ。

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