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340万年前の食肉加工〜日経サイエンス2011年1月号より

従来説よりもはるかに昔から,肉食と石器の利用がなされていた

 

 はるか昔,東アフリカの海岸沿いで,腹ぺこの人たちが原始のステーキディナーにがっついていた。牛やヤギくらいの大きさの動物の肉を鋭い石器で切り,骨をつぶして栄養豊かな骨髄を取り出した。何が特別かというと,これが340万年前のことだからだ。つまり,人類の石器利用と肉食に関するこれまでに知られていた最古の例を,さらに80万年もさかのぼる。
 これらの人々はアウストラロピテクス,より詳しくはアウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人)だとみられる。かの有名な化石人骨「ルーシー」が属する種だ。
 これまで長らく,アウストラロピテクスは基本的には菜食だと考えられてきた。歯やあごが果実や種子など植物性食物を食べるのに適応しているからだ。しかし今回,エチオピアのディキカ遺跡(ルーシーの発見場所に近いところにある)でカットマーク(石器による切断痕跡)のついた動物の骨(次ページの写真)が見つかった。
 「人類はこれまで考えられていたよりもずっと古くから,食生活に肉を取り入れ,石器を使っていた可能性がある」と,研究論文の主執筆者であるマックス・プランク進化人類学研究所(ドイツ)のマクフェロン(Shannon P. McPherron)はみる。この獣骨を報告した論文はNature誌8月12日号に掲載された。
 何が食生活転換のきっかけになったのだろうか? 一部の考古学者は,生態系の変化を受けて新たな食料源を探すことになったのだろうと考えている。「アファレンシスは,体格の変化なしに,行動を変えることによって環境変化に適応した可能性がある」と南アフリカ共和国にあるケープタウン大学の考古学者ブラウン(David R. Braun)はみる。
 一方,この発掘現場では石器が見つかっていないため,カットマークが本当に石器によるものなのか疑問視する声もある。「今後,この種の証拠が多くの研究者によってもっと熱心に探されることになるだろう」とブラウンは予想する。

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