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重力変換器は可能か〜日経サイエンス2011年1月号

変圧器の“重力版”を作れるかも?

 

 注ぎ込んだものよりいかに多くのものが得られたかで科学理論の成功度を測るとしたら,最も成功したのはアインシュタインの一般相対性理論に違いない。いくつかの単純な原理と,「落下するエレベーターに閉じ込められた状況ではどうなるか」といった素朴な思考実験をもとに,一般相対論は重力に関して私たちが知るすべてと,思いもよらなかった多くのことを予測する。

 思いもよらなかった予測の最新の例はノースイースタン大学のスウェイン(John Swain)によるものだ。電気エネルギーを変換する変圧器のように,運動エネルギーを変換する“重力変換器”を作れるかもしれないという。

 この考えは,一般相対論の方程式と電磁気学の方程式が気味悪いほどよく似ているという事実に基づいている。リンゴを落下させる重力は,電場における電荷の役割を質量が果たしているものと考えられる。そして,電荷が運動すると電場が生じるように,質量が運動すると「磁場的重力場」が生まれる。例えば地球の自転は「慣性系の引きずり」という効果によって人工衛星を引っ張る。

 質量の定常的な流れは直流電力に,非定常的な流れは交流電力に似ている。2本の電線を並べて交流電流を流すと,一方の電線の電流が振動磁場を生み,これが他方の電線に電流を生み出す(誘導する)ことで,電力が移動する。ご存じの変圧器だ。それなら,質量の流れについても同じことがいえるのでは? 磁場的重力によって,エネルギーを一方の流れから近くにある別の流れに伝えられるかもしれない。

 物理学者でSF作家でもあったフォワード(Robert L. Forward)が1961年の論文でこの可能性についてさらりと触れていたが,スウェインは例えばブラックホールが形成される際などに,この過程が自然に起きているという。実験室で起こすことだって可能かもしれない。「そうした重力変換器のような効果が生じると予測される状況はたくさんある」とスウェインはいう。

 しかし,誰かが実験室内での重力操作を口にするたび,一部の物理学者はぶちキレる。信頼に足る研究者による主張も尻すぼみに終わった例がある(「物理学者と『賢者の石』」日経サイエンス2002年8月号TOPICS参照)。相対論の専門家には,スウェインの考えは曖昧でおそらく観測不能なものと映る。「スウェインは何の大きさを計算するときにも実際の数値を使っていない」とワシントン大学(セントルイス)のウィル(Clifford M. Will)はいう。

 伊ボルツァーノ大学のモダニーズ(Giovanni Modanese)は,重力と電磁気力が似ているといっても,それはおおよその話にすぎないという。磁場的重力が流れを誘導しうるとは理論的に証明されていないし,どちらかといえば不可能だろうとモダニーズは考えている。それにしても,100年前の理論がいまだにこうした活発な議論の的になっていることは驚きに値する。

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