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殺し屋ウイルスの急所を発見〜2011年1月号より

新薬開発に重要な手がかりが得られた

 

 1918年に大流行したインフルエンザ(スペイン風邪)の犠牲者の冷凍保存されていた肺から,ある研究チームが問題のウイルスを再現してから,5年たった。当時,このジュラシック・パークばりの離れ業は賛否両論を巻き起こした。わずか15カ月間に5000万~1億人の命を奪って人類史上最悪といわれたこのウイルスがうっかり漏れたら(あるいはテロでばらまかれたら)どうするのかという懸念が生じた一方で,再現ウイルスから得られる情報が次のパンデミックに対処するのに役立つはずだとの主張もあった。
 Microbe誌11月号に掲載された論文は,このリスクを取ったことが無駄ではなかった証拠として,新たな薬剤標的の発見を挙げた。米疾病対策センター(CDC)のタンペイ(Terrence Tumpey)らは,ウイルスの複製を可能にしているPB1というタンパク質に注目した。通常のインフルエンザウイルスのPB1タンパク質を1918年に流行したウイルスのPB1に置き換えると,猛烈なウイルスに変貌した。マウスの体内での複製・増殖速度が8倍になり,より多くのマウスが死亡した。
 また,20世紀にパンデミックを引き起こしたウイルスは2009年の新型インフルエンザ(ブタ型)も含め,すべて鳥インフルエンザウイルスのPB1遺伝子を持つことがわかった。これに対し季節性インフルエンザウイルスのPB1遺伝子はほとんどがヒト型だ。
 現在,PB1を標的とする新薬の開発が始まっている。PB1受容体に結合する小分子を用いれば,ウイルスの複製を妨げて,病原性をぐっと弱められるだろう。先の新型を含め最近のインフルエンザウイルスにはタミフルなどの治療薬に耐性を持つようになったものがあるので,新たな抗インフルエンザ薬の必要性は急速に高まっている。従来の抗ウイルス薬とPB1標的薬を組み合わせれば薬剤耐性の拡大を劇的に抑えることができ,毎年の季節性ウイルス対策にも貢献するだろう。

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