News Scan

ホーキング,神学と闘う?〜日経サイエンス2011年1月号より

新著に神学者が猛反発

 

 ホーキング(Stephen Hawking)はやりすぎたのか? 去る9月に刊行されたカリフォルニア工科大学の物理学者ムロディナウ(Leonard Mlodinow)との共著書「The Grand Design」(同書の主旨は2011年1月号「ホーキングが語る究極理論の見果てぬ夢」を参照。邦訳は2010年12月出版予定の『ホーキング、宇宙と人間を語る』,エクスナレッジ)が一部の人たちを怒らせている。科学的議論に基づいて神の存在を否定した,というのだ。 

 

 宇宙がどこから生じたのか,自然法則がなぜ現在あるような姿になっているのか,いまや物理学で説明できると同書は述べている。宇宙は重力のおかげで「無」から生まれ,自然法則は私たちがたまたま住むことになった宇宙の一断面が示す偶然の産物だ。「これらの疑問は科学の領域内で答えを出すことが可能であり,神におでまし願う必要はない」と著者らは書いている。

 

 これに対し神学者たちは,創造主の存在はそもそも科学の領域外だと激怒した。シカゴ近郊にあるザ・レーク・セイントメアリー大学の神学教授バロン師(Robert E. Barron)は同書が哲学的に未熟だと指摘する。例えば宇宙を出現させた法則はビッグバン以前から存在していたはずであって,「その“重力の法則”があった以上,宇宙が無から生まれたとはいえないだろう」という。 

 

 ブログやツイッターからゴールデンアワーのテレビ番組にまで騒ぎが広がるに及んで,ホーキングとムロディナウは,神がいないことを科学が証明したと主張するつもりなどないと反論した。ホーキングはCNNの看板キャスターであるラリー・キングに,「神は存在するかもしれない。だが創造主なしでも,科学は宇宙を説明できる」と語った。 

 

 ムロディナウは「神が存在しないことを証明したなどとはいっていない」という。「神が宇宙を創造しなかったことを証明したといっているのでもない」。物理学の法則を神と呼ぶ人もいるだろうし,「量子論を具象化したものが神だと考えるなら,それは結構なことだ」という。

 

未完成の完全理論

 一方,宇宙の起源に関する科学的説明は,ホーキングがいうほどには完全ではないかもしれない。根拠となっているのはひも理論と,さらに謎めいていて未検証のM理論,そしてホーキング自身の宇宙論だ。「ホーキングとムロディナウが主張の根拠としている理論は,神と同じくらい経験主義的証拠に乏しい」と宇宙論研究者のグライサー(Marcelo Gleiser)はNPR.orgのブログに書いた。さらに,「自然界のすべてを計測できる装置はないのだから,究極理論があるのかどうか決して確認できない」という。

 

 スタンフォード大学の理論物理学者サスキンド(Leonard Susskind)も同意見だ。彼は2006年刊行の著書『宇宙のランドスケープ』で創造主の必要性に疑問を呈したが,「完全理論の探求が終わったとすべての物理学者が考えているわけではない」という。「それには程遠いと思う」。
 神がいてもいなくても,その創造物を理解するのが簡単ではないのは確かだ。

サイト内の関連記事を読む