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噴火とともに去りぬ〜日経サイエンス2011年2月号から

ネアンデルタール絶滅の原因に新説が登場

 

 私たちに最も近い人類,ネアンデルタール人が絶滅したのはなぜか──この長年の謎を解決するカギを,カフカス山脈北部の洞窟が握っているのかもしれない。
 眉が隆起し胸板の厚いネアンデルタール人は30万年近くにわたってユーラシア大陸を支配し,現生人類が経験したことのない厳しい氷河期を生き抜いた。だが約4万年前から人口が減り始め,2万8000年前を少し過ぎたころに絶滅した。これが新たに侵入してきた現生人類との競争に敗れたためなのか,それとも寒暖を急激に繰り返す気候変動が始まったせいなのか,古人類学者の間で議論が続いてきた。これに対し最近の新発見は,大規模な火山噴火がネアンデルタール人を滅ぼすとともに,現生人類にその後を継ぐ道を開いた可能性を示している。

 

4万年前のカフカスで

 サンクトペテルブルクにあるANO先史学研究所のゴロバノーバ(Liubov Vitaliena Golovanova)が率いる研究チームは,ロシア南西部にあるメツマイスカヤ洞窟の堆積物を調べた。1987年に発見されたこの洞窟は,かつてはネアンデルタール人の住みかで,後には現生人類が住んだ。
 さまざまな地層を解析した結果,火山灰の層が見つかり,火山灰の地質化学的組成から,約4万年前にカフカス地方で起きた噴火によるものだと研究チームは結論づけた。洞窟のなかで,この火山灰層よりも古い時代の層にはネアンデルタール人が住んでいた記録が残っているが,以降の層にはそうした形跡がないため,研究チームはこの噴火が地元のネアンデルタール人を窮地に追い込んだと推測している。
 さらに,ユーラシア大陸全体にわたる発掘遺跡を考察したところ,南へ逃れた少数の集団を除き,ほとんどの遺跡ではネアンデルタール人の消えた時期がこの噴火と一致していることがわかった。研究チームはCurrent Anthropology誌に掲載された論文で,この噴火がいわゆる「火山の冬」を引き起こし,ネアンデルタール人とその食物となっていた動物が大量死したのかもしれないと提唱している。
 ネアンデルタール人にとっての不運は,南部に住んでいて噴火の影響を受けなかった現生人類にとっての幸運だった。この説によると,ネアンデルタール人がいなくなった後,現生人類は難なく北上できたと考えられる。
 一方,洞窟から得られたデータの解釈について異論を唱える研究者もいる。例えば伊ナポリ大学のフェデーレ(Francesco G. Fedele)は論文と同時掲載された論評のなかで,火山灰の年代はこうした結論を導くのに十分なほど確定的ではないと苦言を呈した。だが,英シェフィールド大学のペティット(Paul B. Pettitt)ら他の研究者は,この新たな絶滅・交代シナリオを妥当な線だとみる。
 ネアンデルタール人絶滅の謎は解決には遠いが,この火山噴火説は議論をさらに熱くすることだろう。

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