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考慮すべき力~日経サイエンス2011年4月号より

重力が電磁気力に干渉している?

 

 物理学の統一理論に関する雑誌記事はたいてい,アインシュタインの一般相対性理論と量子論が相いれない,という書き出しから始まる。一方は重力を扱い,他方は電磁気力と2種類の核力(強い力と弱い力)を扱うが,どちらもすべてはカバーしていないので大きな溝が残っている……。

 これは話の筋としては上出来だが,真実ではない。「誰もが量子力学と重力は相性が悪く両立しないという。いまだにそういわれるが,間違いだ」と語るのはマサチューセッツ大学アマースト校のドノヒュー(John F. Donoghue)だ。

 有名な物理学者ファインマン(Richard Feynman)は1960年代,両者を滑らかにつなぐ重力の量子論を考えついた。重力以外の力を記述する量子論とよく似た理論で,光子が電磁気力を伝えるように,グラビトン(重力子)という粒子が重力を伝える。だがこの理論では,電磁気力が基本的にすべてのスケールで同じ単純な仕組みで振る舞い,強さだけが変わるのに対し,重力は微小世界では急激に複雑になってしまう。このため,最終的にはひも理論やループ量子重力理論など,より深遠な理論に道を譲ることになるだろう。

 しかし,そうした複雑さが問題になるのは極めて小さなスケールの場合だけなので,通常は無視して構わない。ドノヒューらは1990年代,ファインマンの理論を有効な作業仮説として利用し始めた。最終決定版の理論ではないが,これを使えば中規模スケールから大規模スケールにおける重力と他の力の間の溝を完全に埋めることができる。

 

異種の力が干渉

 

 2006年,マサチューセッツ工科大学のロビンソン(Sean P. Robinson)とウィルチェック(Frank Wilczek)はこの作業仮説を適用し,各種の力の強さがスケールに応じて変化する仕方に重力が影響しているかどうかを調べた。重力が干渉しないなら,電磁気力の強さはあるスケールで核力に一致し,それとは別のスケールにおいて強さが重力と一致するはずだ。これに対しロビンソンとウィルチェックは,重力は他の力を弱め,ある同じスケールですべての力が一致すると予測した。このアイデアはうまくいかなかったが,各種の力が互いにどう干渉するかが検討されるようになった。

 昨年11月,英ニューカッスル大学のトムズ(David J. Toms)は重力のおかげですべての力が一致することはないとしても,少なくとも電磁気力と2種類の核力が質的に調和するようになると主張した。重力の干渉を無視した場合,電磁気力は近距離になるほど強くなるのに対して,核力は弱まるが,干渉を考慮に入れると,重力によって電磁気力が弱まり,極小スケールでは電磁気力が核力と同じ振る舞いをするようになる。

 ウィルチェックはトムズの論文を「感動的」と評した。ところが同じころ,ドノヒューと大学院生のアンバー(Mohamed M. Anber),エル=ヒューシニー(Mohamed
El-Houssieny)はこのアプローチ全体に疑問を投げかけた。重力が何らかの形で他の力に干渉するのは確かだとしても,その結果として,力の強さをうまく調整するといった明快な効果が生じるというのは疑わしい。むしろ重力の複雑な振る舞い方が他の力にも“伝染”するだろう。

 このような正反対の結論に至った一因は,計算が複雑で,結果をどう解釈すればよいかまだ誰にもわからないからだ。「何が起きているのかを物理学的に理解できたらよいのだが,できていない」とトムズはいう。原子核を発見したラザフォード(Ernest Rutherford)の言葉を借りれば,物理学者は簡単な言葉でバーテンダーにそれを説明できない限り,何かを理解したとは見なさない。量子重力の理論家にとって幸いなことに,この分野のバーテンダーは辛抱強いたちだ。

 

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