SCOPE & ADVANCE

細胞と会話する回路を目指して〜日経サイエンス2012年2月号より

201202_025小さなバイオコンピューターに進展

 

 人体に埋め込んだ分子サイズのコンピューターによって健康状態をチェックし,病気が進行しないうちに治療する──そんな時代の到来を研究者たちはずっと夢見てきた。そうしたコンピューターは生体物質から作られることになるだろう。利点は生体が使っている生化学的な言語を処理する能力にある。最近,いくつかの研究グループがこの分野での進展を報告した。

 

DNAで論理回路

 カリフォルニア工科大学のチームは「シーソーゲート」と呼ばれるDNAナノ構造を利用して,マイクロプロセッサーで使われているものと同様の論理回路を構築し,Science誌に報告した。

 半導体チップが電流を使って1と0を表すように,生物ベースの回路は試験管内のDNA分子を使う。試験管に新たなDNA鎖を“入力”として加えると,溶液中で一連の化学的相互作用が起こり,別のDNA鎖が“出力”として遊離される。病気を示す分子を入力とし,適切な治療薬の分子を出力させることが理屈のうえでは可能だろう。こうしたコンピューターを試験管内に構築するうえで問題になるのは,どの分子間相互作用が起こるかを調整するのが難しいことだ。

 この点,シーソーゲートは特定のゲートが特定の入力DNA鎖にのみ反応するところが素晴らしい。同研究チームはその後にNature誌に発表した論文で,簡単な記憶ゲームを行うことができるDNAベースの回路を構築したと報告し,自分たちの技法の力を見せつけた。こうしたメモリーつきの回路を生きた細胞に組み込めば,一連の生物学的な手がかりに基づいて病気を発見して治療できるかもしれない。(続く)

 

続きは現在発売中の2月号誌面でどうぞ。

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