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宇宙に特別な向き?〜日経サイエンス2012年2月号より

定説に疑問を呈する観測結果が出ている

 

 宇宙には中心もなければ端もなく,銀河や光のなかにたくし込まれた特別な領域もない。どの方向を見ても同じ――というふうに物理学者たちは考えていた。この「宇宙原理」は現代宇宙論の基礎のひとつだ。ところが最近,これに疑問が生じている。宇宙にある特定の方向があることを示すかすかな証拠が見つかり,その数も増えつつあるためだ。

 

背景放射が示す「悪魔の軸」

 最初に見つかった最もしっかりした証拠は,宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測データから得られたものだ。背景放射はいわゆる“ビッグバンの残照”で,完全には均一でなく,他よりも高温のスポットや低温のスポットが天空上に点在している。しかし最近,これらのスポットが当初考えられていたほどランダムに分散しているのではないことがわかった。あるパターンに沿って並んでおり,宇宙のある特別な方向を指し示しているのだ。宇宙論研究者はこれを,やや大げさに「悪魔の軸」と名づけた。

 宇宙に特定の向きがあることを示すさらなる兆候は,超新星の研究から得られた。超新星は星が一生を終える最期の姿で,短時間ながら銀河全体を上回る明るさで輝く。宇宙の膨張速度を詳しく調べるのに使われてきた(宇宙の加速膨張の発見は2011年のノーベル物理学賞の授賞テーマとなった)。

 詳しい統計的研究によって,どの超新星も「悪魔の軸」が示すのとほぼ同じ方向に向かって,
より速く動いていることがわかった。同様に,銀河団が南天のある領域に向かって時速160万kmで宇宙空間を動いているという観測報告も出た。

 

誤差か重大発見か

 これらはいったい何を意味するのだろうか? ことによると,何の意味もないかもしれない。慎重な努力にもかかわらずデータに忍び込んだわずかな誤差かもしれないし,「偶然かもしれない」とミシガン大学アナーバー校の宇宙論研究者ハテラー(Dragan Huterer)はいう。でも,ひょっとしたら「驚くべき何か」をとらえた最初の兆候なのかもしれないともいう。(続く)

 

続きは現在発売中の2月号誌面でどうぞ。

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