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細菌の遺伝子交換,ずっと頻繁~日経サイエンス2011年6月号より

「水平伝播」という現象が進化を促している

 

 細菌と古細菌(原核生物と総称される)は至るところで生きていて,胃酸から深海の熱水噴出孔まで多様な環境中で分裂・増殖している。これほど多くのさまざまな場所で生きていけるのは,ゲノムが驚くほど柔軟だからだ。原核生物はほとんど自在に遺伝子を変えたり,失ったり,複製したりできる。また近くの仲間から遺伝子を獲得できること(抗生物質耐性が広がる一因だ)も以前から知られてきた。ただ,「遺伝子の水平伝播」と呼ばれるこの新DNA獲得法が使われるのは比較的まれで,強力な抗生物質にさらされるなど,環境から強い圧力を受けたときに限られると考えられてきた。
 ところが,PLoS Genetics誌に掲載された最近の研究によると,原核生物は近くの微生物からかなり頻繁に遺伝子を獲得しているという。水平伝播は何らかの中継役やウイルスを介して微生物が別の微生物から遺伝情報を得れば成立し,異種の原核生物の間でも起こりうる。

 

新遺伝子の大半は水平伝播で獲得
 パリにあるパスツール研究所のトランジェン(Todd J. Treangen)とロシャ(Eduardo P. C. Rocha)は,110種の原核生物のゲノムのデータベースをもとに,水平伝播によって獲得された遺伝子の数を計算した。
 原核生物の固有ゲノムのなかで進化した遺伝子は同様の遺伝子の近くに位置していることが多く,既存の遺伝子と似た機能を持つ。これに対し水平伝播で獲得された遺伝子はゲノム中の位置がまちまちで,機能も固有遺伝子とは非常に異なっている場合が多い。これら2つの主な特徴を追跡することで,トランジェンとロシャは,調査対象の原核生物が持つ新しい遺伝子の88?98%が水平伝播によって獲得されたと計算した。
 エール大学の微生物学者オフマン(Howard Ochman)は「彼らの研究は細菌が持つ新遺伝子のほとんどが外部に由来することを示している」という。「ゲノム配列全体を調べているうえ,データの選択方法も適切なので,この結論は十分に信頼できるものだと思う」。

 

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