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許容できる原発リスクとは~日経サイエンス2011年6月号より

「受動的安全性」という新設計に注目

 

 米国でほぼ30年ぶりとなる新設原子力発電所がジョージア州オーガスタ郊外に姿を現し始めた。大手電力会社サザンカンパニーの施設で,基礎工事のために赤粘土の表層をくりぬいて岩盤に達する杭を打った。導入されるのは最新鋭原子炉「AP1000」で,原子炉への電力供給が絶たれても機能し続ける「受動的安全性」を備えている。

 

 サザン社は今後6年間にこうしたAP1000炉を2つ建設する計画だ。他の電力会社は合計で12基以上を計画,AP1000以外の炉も6基建設するが,いずれも受動安全特性を備えた原子炉になる。

 

 東京電力の福島第1原子力発電所は1970年代に建設されたもので,電力供給や人間の助力なしに安全機構が機能する受動的安全性には欠けていた。3月の大地震で同原発と電力を供給する送電網との接続が破壊されたほか,続く津波によってバックアップ発電機と電気設備が壊れ,冷却系が働かなくなって炉心の温度が上昇した。

 

 AP1000はこれと対照的に,炉心の上部に巨大な水タンクが備わっている。メルトダウン(炉心溶融)につながるような異常が起こると,温度上昇を受けて弁が開き,タンクの水が原子炉に流れ込むようになっている。

 

 また,AP1000は“開放設計”になっていて,緊急の際には原子炉の冷却に空気を使う。標準的な設計には反するが,コンクリートと鉄でできた原子炉格納容器の外側を覆っているコンクリート製の建物(原子炉建屋)の屋根付近に通気孔がある。メルトダウンになった場合,自然に対流が起こって外気が建屋内に引き入れられる。

 

 ただ,この対流は屋根の通気孔を通して放射性物質の粒子を外部に広げることにもなる,と批判派は指摘する。これに対し技術者は,すべてのリスクをゼロにするのは不可能であり,なしうる最善のことは安全性とコストをにらんで許容可能な妥協点を決めることだとみる。

 

 「こと地震に関しては,できうることに限りがある」とマサチューセッツ工科大学にいる原子力工学研究者ゴーレイ(Michael Golay)はいう。「どのリスクなら,あなたは許せるのかね?」

 

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