きょうの日経サイエンス

2011年3月3日

大科学実験:譲れない一線

 

大科学実験ファンの皆さま,こんにちは。
昨晩はアップせずに失礼いたしました。<(_ _)>。
ウイルスだか細菌だかに身体の細胞を乗っ取られ,詫摩はただの病原体複製器に成り果てておりました。常日頃からの白血球たちへの心くばりが足りなかったせいか,肝心なときに主(あるじ)のために奮起してくれなかったようです。皆さまもご留意くださいませ。いざというときに頼りになるのはご自身の免疫細胞たちですぞ。

 

さて,今回の再放送は「水深10000m!?」〔3月4日の1時10分(3/3の深夜)〕 1万mの水圧を再現できる実験タンクを使い,バイクがどうなるのかを追跡した大実験です。NHKエデュケーショナルのチーフプロデューサー森美樹さんに言わせると,「打ち合わせに一番時間がかかったのは,たぶんこの回」。

 

打ち合わせ相手は実験タンクの持ち主(?)である海洋研究開発機構(JAMSTEC)です。

 

皆さんも何となく察知しているかと思いますが,大科学実験の制作スタッフはテンションが高いです。作業そのものはけっこう緻密なのですが,スタッフたちはハイです。危険な実験もありますから,あのくらいのテンションがないと乗り切れないのだろうぁとは思います。

 

そのハイテンション集団は,視聴者が「水圧って,スゲぇー」と思わずつぶやくような映像を撮りたい。JAMSTEC側もその気持ちは共有しているのですが,「装置を壊されたら,かわなん」の気持ちが強かったよう(詫摩はこの件でJAMSTECの方にお話を聞いたわけではありません)。

 

そりゃ,そうでしょう。数トンはありそうな金属製の蓋といい,その蓋を前日からキンキンに冷やしておいて,常温に戻るときの膨らみも利用して密閉することといい,聞けば聞くほど,そんじょそこらにある実験装置ではありません。余物をもって代え難い,貴重な設備です。国の宝です。これが壊れると,科学研究に支障が出ます。

 

ディレクターで総合演出の寺嶋章之さんによれば,「水圧を示す展示に,ガラス製の浮きが粉々になったのを示すのがあったんですよ。で,『これ,いい! これをやりましょう』と言ったんですよ」。ところが,粉々になるものは配管を詰まらせるのでだめ。壊れ方が予期できないものはだめ。塗装してあるものも,こうした理由からだめ。「向こう(JAMSTEC)の人にも『やらせてあげたい』とか『自分もみてみたい』という気持ちはあったようですが・・・」,やはり実験タンクを守りたい気持ちが勝ったようです。まぁ,そりゃそうだろうと思います。譲れない一線だったのでしょうね。とはいえ,制作スタッフとしても,「すごい!という絵を撮りたい」気持ちは譲れません。

 

タンクに沈めることになったミニバイクが手作り品になったのは,すべてわかっている素材にしたいから。信頼のおける業者ということでJAMSTECが紹介した町工場の作品となりました。

 

こう書くと,JAMSTECがしぶしぶタンクを使わせたかのように読めてしまうかもしれませんが,もちろんそんなことはありません。終始,協力的で,番組中に映っているヘルメットかぶった実験レンジャーは大科学実験の制作スタッフではなく,JAMSTECの方々です(ほかの回ではレンジャー衣装を「それは結構です」と断って鈴木文野さんを悲しませた人もいます)。

 

それに,JAMSTECが紹介した業者さんは,バイクを作った新潟の町工場にしても,水中カメラ(冒頭のオレンジの風船とともに潜る実験)の方にしても,“これぞ職人の中の職人!”といった感じの方々で,寺嶋さんは大いに楽しんだようです。「(面白そうだと選んで受けた仕事だけを採算度外視で丁寧にするので)仕事はあるのに儲からねぇ,っていうんですよ。そりぁ,儲からないだろうって思いますよ」と喜々として語ってくれました。寺嶋さんも職人気質の人ですから,やっぱり一緒に仕事をしていて嬉しかったのでしょうね。

 

NHKエデュケーショナルの「大科学実験」番組公式サイトはこちら