きょうの日経サイエンス

2010年11月24日

パラボラの映像美!

 

今回は何を書いても蛇足になるなー,と観念してしまうほどの映像美です。
まずは,NHKエデュケーショナルの番組公式サイトから,実際の映像を見て下さい。特に後半。床に置いたパラボラに向けて真上からひたすらスーパーボールを落とすだけなのですが,本当に美しいです。自然界にある科学の法則って,美しい。すなおにそう思えてきます。

 

日経サイエンスの読者の方ならば,パラボラの軸に平行になるようにボールを落とせば,1点に集まることは「当たり前」ですよね。でも,それを「見た」ことはありますか? 光や音での実験は多いのですが,物体の動きがわかる映像は見たことないのでは?

 

音があった方がいいですが,消音設定にしてもその映像美は堪能できますので,今,職場でこれを読んでいる方も,ぜひどうぞ。お時間のない方は,後半だけでも。見終わった後,手がけているお仕事を新たな視点で眺めることができるかもしれません。少なくとも,頭の切り替えにはもってこいです(注:職場の方に怒られても,当方は一切の責任を負いかねます・・・)。

 

冒頭で「ひらすらスパーボールを落とすだけ」と書きましたが,実はこれがかなり大変。予備実験では手で落としたそうですが,どんなに「同時に」に落としたつもりでも,ウルトラハイスピードカメラで1つの絵に収めるには0.07秒以内の誤差でないとダメ。100個を次々と落とす映像でも,全部を0.5秒で落としたそうです。さらに,ボールが回転しながら落ちると,跳ね返った時の軌道がずれてしまうので,ダメ。試行錯誤の末,ボールを3つの点で固定した状態から1点だけをリリースして落としました(3点を同時にリリースするのがベストですが“同時に”は,やはり難しかったそうです)。

 

 

 

この「ボール落下装置」を作ったのは田染(たしぶ)さん。クジラを封筒型のなまずから立体裁断のクジラに進化させた人です。前回放送の梃子(てこ)でごつい鉄の梃子を作ったのも田染さん。梃子の収録の時にも「ボール落下装置」で頭がいっぱいだったらしく,「ボールを落とす話ばっかりしていた」と梃子の回の担当ディレクターが言っていました。

 

 

 

 

収録で最初にやったのは5つのボールを次々に落としていく場面。収録を見学したのですが,落ちるのが遅れたり,うまくベルに当たらなかったり・・・。改良していくうちに,良くなっていくのですが,5つのうち最初の1つだけが他の4つと違う別の方向に飛んでいくことが続くようになりました。ボールを落とす場所を変えても結果は同じなので,落下装置のトラブルとは考えにくいです。ほかの4つはベルに当たるのに,最初の1つだけ違うところに行くのです。なぜ??

 

見学中の詫摩は,ここで空腹と寒さに耐えかねて,チーフプロデューサーの森美樹さんとNHKの社員食堂へ(猛暑のころの収録だったのですが,スタジオはものすご?くエアコンが効いていました。人間でなく,機材のためでしょうね,あそこまで冷やすのは。ライトを浴びて暖かそうなパラボラがうらやましかった・・・)。

 

30分ほどして戻ってみたら,ボールを落とす前にスタッフがパラボラを手で叩くようになっていました。すると,ボールは5つともピシッとベルに当たるように。

 

本当のところはわからないのですが,たぶん,こういうことなのだと思います。
最初のボールがパラボラにぶつかると,パラボラは音を立てます。振動するわけです。2つめ以降のボールは振動しているパラボラに落ちてきます。最初の1個だけ,条件が異なるのです。

 

このことにスタッフが気がついて,パラボラを叩いて鳴らしてから,ボールを落とすようにしました。すると,5つのボールすべてがベルに向かって飛ぶように・・・。うーん,おみごと! 
しかし,その“発見”のときに現場に居合わせなかったのが,つくづく残念です・・・。

 

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