きょうの日経サイエンス

2010年6月17日

「ロケット」と「狐憑き」

 この2つの言葉からどんなことを連想しますか? 「ショートショートの神様」星新一の大規模な回顧展が世田谷文学館(東京都世田谷区)で今月27日まで開かれていますが,その会場の一画で星さんの講演録音を聞くことができます。その講演で,星さんはショートショートのアイデアを生みだす極意を語っています。それは「結びつかないと思える2つのものを結びつけて新しいものを生みだすこと」。その作例として,先端技術の粋を集めたロケットと,古めかしいお狐さまを題材にしたわけです(オチが知りたい方は会場に足をお運びいただければと思います)。その極意は革新技術の開発にもつながるのではないかな,と思いました。
 星さんは大学院で農芸化学を研究していたところ,大変な紆余曲折を経て「はからずも」専業作家になりました。そうしたバックグラウンドがあって,ショートショートという新しい小説世界が築かれたようにも思えます。会場には作家,北杜夫の自宅で開かれた第1回「文華勲章」授与式の写真も展示されていました。受賞者は星さんで,写真には北さんと星さんのほか,北さんの隣に住んでいた紀行作家の宮脇俊三氏の顔もありました。北さんは医学を学んで「どくとるマンボウ航海記」などのユニークな作品群を生みだし(もちろん芥川賞作品なども別にありますが),宮脇さんも最初は大学で地質学を学んだ理科の素養がある作家で(最終的に学んだのは西洋史でしたが),鉄道紀行文学というジャンルを開拓しました。そうした系譜を遡れば寺田寅彦や宮沢賢治などに至りますが,なぜかいずれも私の好きな作家です。(中島)