きょうの日経サイエンス

2010年6月1日

写真の進歩は速かった

 日曜に自宅でニュースを見ていたら,世界初の実用カメラが競売にかけられ,過去最高額の61万ユーロで落札されたとのこと。1839年にフランス人のダゲールが発明した「ダゲレオタイプ」というカメラなのだとか。テレビ画面に映る木箱のようなそのカメラに見覚えはないのですが,ダゲール,ダゲレオタイプというその語感に覚えがありました。

 もしやと思い,バックナンバーを探してみたら,やはり見つかりました! 日経サイエンスの提携誌SCIENTIFIC AMERICANの50年前,100年前,150年前に載った記事を紹介する「サイエンス考古学」というコラムに登場していました(日経サイエンス2005年11月号に掲載)。記事は1855年11月号からのもので,パリ万博の展示写真を見ると,カロタイプの写真が主流で,ダゲレオタイプの写真は少ないことから,後者は時代遅れになりつつあるようだといったことが書いてあります。

 ダゲレオタイプの銀板写真は複製ができませんが,カロタイプ(発明者のタルボットにちなんで「タルボタイプ」とも)はネガからポジに焼くので,何枚も複製をつくることができます。実用カメラは画期的な道具だったと思いますが,発明から16年で時代遅れになってしまったんですね。

 ちなみに,日本最古の写真はペリーの黒船に同乗していた写真技師がとったものとされています。1854年ですから,パリ万博の記事の1年前ですが,タゲレオタイプです。日本人が撮った最初の写真はその3年後の1857年で,被写体は薩摩藩主・島津斉彬(篤姫を養女にした人です)。これもタゲレオタイプですが,有名な坂本龍馬の写真をはじめ,幕末の志士たちの写真はカロタイプの改良型である湿板写真。あっという間に,世界の標準に追いついたんですね。(詫摩)