きょうの日経サイエンス

2010年5月26日

パリコレとトポロジーの意外な関係

 ファッション分野の人には旧聞に属することながら,科学サイドの人にはあまり知られていないトリビアをひとつ。今年3月に行われたパリコレクションで,日本が誇るファッションブランド,イッセイ ミヤケが出品した一連の作品のテーマは「ポアンカレ・オデッセイ」でした。はい,あのポアンカレ予想のポアンカレです。

 ポアンカレ予想は,ロシアの孤高の数学者,ペレルマン博士が2003年に証明しました。その後3年かけて証明の正しさが検証され,100年の難問についに決着がつきました。
 証明の重要なカギとなったのが,米国のサーストン博士による「幾何化予想」。ポアンカレ予想の対象である3次元多様体は,8種類に分類できると予想した,トポロジーのお仕事です。「予想」が2つ出てきてややこしいのですが,ペレルマン博士は,実はこの幾何化予想の方を証明したのです。サーストンの幾何化予想はポアンカレ予想を含んでおり,幾何化予想を証明したので,ポアンカレ予想も自動的に証明したことになりました。

 イッセイ ミヤケのクリエイティブディレクター,藤原大氏らはサーストン博士に直接会いに行き,8種類のトポロジーからインスピレーションを得て,作品を作り上げました。その藤原氏らにトポロジーの手ほどきをしたのが,東京工業大学の小島定吉教授と,明治大学の阿原一志准教授です。小島先生によれば,イッセイ ミヤケのデザイナーやパタンナーの方々は,すっかりトポロジーの基本概念をつかんでしまわれたそう。サーストン博士はわざわざパリコレの会場に出向いて,ショーを見たのでした。

 ところで,ちょっと気の早い予告ですが,小島先生には6月25日発売の日経サイエンス8月号の対談記事にて,その辺のお話を含めてトポロジーを語って頂きます。幾何化予想から生まれたファッションを見てみたい方は,ぜひ御覧下さい。(古田)