見通し煙る麻薬の医療利用〜日経サイエンス2011年12月号より
マリファナが含む化学物質は医薬品として有望だが,厳しい規制が足かせになっている
がんやエイズの痛みと吐き気,体重減や,多発性硬化症の筋肉の痙攣に対してマリファナが有効とみられることが予備的な臨床試験で示されているが,米国の医療用マリファナ研究は急速に縮小している。大麻草に関する研究を支援してきた唯一の州であるカリフォルニア州による研究費が今年で打ち切られるほか,研究用マリファナの入手に関する国の規制が依然として厳しいためだ。
マリファナの現在の規制区分を変更してほしいという請願が2002年に米麻薬取締局に提出され,米国医師会(AMA)もそれを支持してきたが,当局は去る7月にこれを却下した。なのでマリファナは今後も最も厳しい規制区分「スケジュールI」にとどまる。この分類は「乱用の可能性が高く」「米国内で現在,医療用としての使用が一般に是認されていない」薬物と定義されている。
だが,大麻の医療応用を目指す人たちの多くは,米国のマリファナ規制が矛盾しているとみる。当局がマリファナをスケジュールIにとどめている根拠の1つは,マリファナの利点を示した臨床試験が不十分であるという点だ。しかし,その分類のせいで研究者もマリファナの入手が難しく,それが研究を制限している面もあるだろう。
単離化合物の研究は前進
大麻草をまるごと使う研究の見通しは暗いが,大麻から単離した化合物(400種類以上の分子からなる)の研究は比較的順調だ。マリファナの主成分であるデルタ9テトラヒドロカンナビノール(THC)は,がん患者とエイズ患者の吐き気や体重減少の治療用としてすでに米食品医薬品局(FDA)に認可されている。メイヨークリニックはこの化合物(商品名マリノール)を過敏性腸症候群の治療薬として,ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(ボストン)は慢性疼痛の治療薬として研究中だ。(続く)
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