
「Where the Wild Things Are」というベストセラー絵本がある(邦題は『かいじゅうたちのいるところ』)。おそろしげな野生動物がいるところはどんな場所か,そのイメージは人によって異なり,文化や幼い頃の教育,環境,映画やテレビで見たシーンの影響を受ける。そして私の場合,野生生物学者として受けた教育とフィールド調査での実体験の食い違いが,このイメージを大きく変えた。
私は1990年代にインドライオンとウンピョウの調査のためにインド国内の自然保護区を訪れ,研究者の道を歩み始めた。当時の私は野生動物,とりわけ大型肉食動物は自然の中に生息しているという保全生態学の大前提を信じていた。ところが2000年代以降,農村の内部や周辺でヒョウを見かけるようになり,大きな衝撃を受けた。「こんなところにいるはずがない!」それは私が学んだ知識に反していた。しかしヒョウたちは学者が自然と人間との間に築いた概念的な壁を,保護区の内外を行き来するのと同じようにやすやすと飛び越えていたのだ。
続きは2024年1月号の誌面でどうぞ。
著者
Vidya Athreya
人間と肉食動物の相互関係を研究する生態学者。野生生物保護協会(WCS)インド支部のシニア・サイエンティストを務める。
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2022年9月号。
原題名
Living with Leopards(SCIENTIFIC AMERICAN April 2023)