
間瀬真知香(ませ・まちか)がルイボスティーの入ったコップをゆらしながら,渦巻きについて考え始めたとき,何戸家奈留沙(なんとか・なるさ)と夏太(なつた)の姉弟が,残暑をものともしない元気さをまとって入ってきた。
「おはようございます。今日も前回に続いて“らせん”について考えましょう。特に“対数らせん”を見ましょう」
◎ドットパターンから対数らせん出現
「次の図は前回見ました。正方形の中にたくさんのオレンジ色の点をランダムにちりばめて,オレンジ色の点と同じ配置で全体を97%相似縮小した青色の点が印刷された透明シートをその上にかぶせて,さらに,正方形の中心を回転の中心として少し回転させて,対応するオレンジ色と青色の点を線分で結びます。線分はまとめると渦巻き状に見えて,それは対数らせんになるという話をしました」
真知香は対数らせんを合わせた図を見せながら「どのように対数らせんと計算されたかを考えてみましょう」といった。
オレンジ色の点(オレンジ点)と対応する青色の点(青点)の動きに注目する。縮小率を s (0 <s < 1) とし,回転角度をφとすると,回転の中心からオレンジ点までの距離と青点までの距離の比は 1 : s で,下図のような状況になる。
「オレンジ点と青点を結んだ線分がたくさん集まるとらせんに見えるのですね」と奈留沙は状況を理解したが,ここかららせんの式がどのようにして導かれるのかわからない。
真知香は頷いて続けた。まず,上で見たように,角度φだけ回転すると中心からの距離が s 倍になった。
次に,角度φの半分のφ/2回転したとき,中心からの距離がα倍になったとする。φ回転は,φ/ 2 回転を2回繰り返すから,α倍のα倍,つまりαの2乗が s になる。次の図の黄色の小さな点(黄点)は,オレンジ点を,縮小率αで,φ/ 2 回転した点である。
さらに,角度φの3分の1のφ/3だけ回転したとき,中心からの距離がα倍になったとする。φ回転は,φ/3回転を3回繰り返すから,α倍のα倍のα倍,つまりαの3乗が s になる。図の2つの黄点は,オレンジ点を,縮小率αで,それぞれφ/3回転,2φ/3回転した点である。
「次の操作がわかりました」と夏太は説明を始めた。
「φ/4回転したとき,中心からの距離がα倍になったとします。φ回転は,φ/4回転を4回繰り返すので,αの4乗が s になります。図の3つの黄点は,オレンジ点を,縮小率αで,それぞれφ/4回転,φ/2回転,3φ/4回転した点です」
「もっと回転角度を細かく刻むと,次の図になります。だんだん,曲線が見えてきました。これがらせんなのですね」
奈留沙は,図を見せながらいった。
真知香は説明を続けた。
角度φを細かく n等分に分割して,φ/n回転したとき,中心からの距離がα倍になったとする。φ回転は,φ/n回転を n回繰り返すから,αのn乗がsになる。ここで nを限りなく大きくすると,黄点が無限に増えてある曲線に近づくことが予想される。
等分割以外のあらゆる分割を考えても同じ曲線に収束することを示そう。h=φ/nとおくと,αのn乗,つまりαのφ/ h乗がsだから,αはsのh/φ乗に等しい。こうして,等分割から切り離した任意の実数 hに対して,オレンジ点を h 回転したとき,中心からの距離がsのh/φ乗倍になるという一般の関係が得られる。hを0にする極限をとると,中心からの距離についての微分方程式が導かれ,それを解けば,滑らかな曲線「対数らせん」を得る。
◎オウムガイに見える対数らせん
今度は,sが1よりも大きい拡大率となる場合を考えてみましょう,といって真知香は模式図を見せた。
続きは日経サイエンス2023年11月号にて
間瀬 真知香(ませ・まちか)フリーの実験数楽者
何戸家 奈留沙(なんとか・なるさ)高校2年生
何戸家 夏太(なんとか・なつた)高校1 年生。奈留沙の弟