
過去10年,シアトルは急成長してきた。2010年から2020年の間に人口は25%近く増えた。成長は都市にとって一般によいことだが,交通渋滞という忌まわしい問題を伴うことが多い。しかしシアトルは中心街の交通量を10%減らしてこの危機を回避し,その過程で温室効果ガスの排出を削減した。どのようにして? 意外な解決策による。バスを活用しただけだ。
バスは米国の脱炭素化において最も見過ごされている解決策だといえる。米環境保護庁(EPA)によると交通・運輸部門は温室効果ガスの最大の排出源であり,排出量の30%近くを占めている。2022年夏,米国の新車販売の5%以上が電気自動車(EV)となり,電気自動車の所有は新しもの好きの酔狂から交通手段の定番に変化した。今年のスーパーボウルの実況中継番組で放映された自動車のコマーシャルの4本に3本は電気自動車のCMだった。バイデン大統領(Joe Biden)は1月,「私の在任中に,アメリカの偉大なロードトリップは完全に電化される」とツイートし,EVハマーのハンドルを握る自身の写真をその投稿に添えた。
大統領は2030年までに排出量の50~52%削減を誓約する米国の気候変動対策の一環としてEVを支持している。この誓約はパリ協定の趣旨に沿うものだ。だが,憂慮する科学者同盟でクリーン・トランスポーテーション・プログラムを率いるヒガシデ(Steven Higashide)は,この目標を達成するには「自家用車の電化は必要だが,十分ではない」と注意を促している。
彼の指摘を裏づける研究結果が増えつつある。カリフォルニア州大気資源局(CARB)による2018年の報告書は,2030年までに温室効果ガス排出を1990年比で40%削減するという当時の同州の目標をEV化だけでは達成できないことを見いだした。同州の目標達成には,たとえ電気自動車が10倍に増えたとしても,人々の運転距離を25%減らす必要がある。
続きは2023年11月号の誌面で。
著者
Kendra Pierre-Louis
ニューヨークを拠点とする気候変動リポーター。気候変動の科学と社会的影響を追っている。Gimlet(ポッドキャスト配信大手),New York Times紙,Popular Science誌に寄稿。
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「クリチバ市にみる人間重視の都市計画」,J. ラビノビッチ/ J. レイトマン,日経サイエンス1996年5月号。
原題名
Let’s Take the Bus(SCIENTIFIC AMERICAN May 2023)