
素粒子物理学の今夏のハイライトは米国立フェルミ加速器研究所で進んでいる素粒子「ミュー粒子」に関する実験の最新結果の発表で,実験値が理論値と一致せず,ズレていることが確証された。このズレは,現在の素粒子物理学の理論的土台である「標準モデル」では説明できない未知の現象が存在することを意味する。事実であればノーベル賞級の成果だが,額面通りに受けとめるにはクリアすべき問題がある。その問題の解決に重要な役割を果たす別の実験が,筑波山を望む高エネルギー加速器研究機構(KEK)で今まさに進んでいる。新鋭加速器「スーパーKEKB(ケックビー)」を用いた世界27カ国・地域約1200人が加わる「Belle II(ベル・ツー)実験」だ。
「スーパーKEKBで電子とその反粒子である陽電子を衝突させてB中間子という粒子をたくさん作り,それが崩壊する様子を測定して,未知の現象が起きていないか調べている。電子・陽電子衝突ではB中間子の生成以外にも様々な反応が起きているので,それらからも未知の現象を探ることができる。この方面では,今,話題となっているフェルミ研究所でのミュー粒子の実験に関係する研究をしており,成果が出てきている」とBelle II実験を主導するKEK教授の後田裕は話す。
続きは日経サイエンス2023年11月号にて
協力
後田 裕(うしろだ・ゆたか)/石川明正(いしかわ・あきまさ)/松岡広大(まつおか・こうだい)
後田は高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所の教授で副所長,石川と松岡は准教授。3人はBelle II実験に携わっており,後田はプロジェクトマネージャーを務める。
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