日経サイエンス  2023年11月号

特集:ついに捉えた背景重力波

新たな窓から覗く 巨大ブラックホールのダンスと原始宇宙

中島林彦(編集部) 協力:高橋慶太郎(熊本大学)

重力波で宇宙を探る新たな窓が開いた。その窓から見えてきたのは広大な宇宙に散在する,太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールの世界。2つの巨大ブラックホールがペアになり,数年から数十年で互いの周りを回りながら長大な波長の重力波を放射している。これまで知られていなかったダイナミックな宇宙の姿だ。この新たな窓から詳しく宇宙を調べることで,巨大ブラックホールとその母体となる銀河の進化,さらには銀河を生み出した原始宇宙の姿に迫ることができそうだ。

「新たな窓」は超低周波数の重力波,具体的には1nHz(ナノヘルツ。1nHzは10億分の1Hz)から10nHzの領域だ。10nHzの重力波の波長は約3光年で,太陽系に最も近い恒星系であるケンタウルス座アルファ星系までの距離(約4光年)に近い。背景重力波は恒星間スケールの波だといえる。米欧など5つのグループは,この周波数帯域に感度がある観測システム「パルサータイミングアレイ(PTA)」で電波天体パルサーを長期にわたって観測した結果,同程度の強さの重力波が全天のあらゆる方向から常時,地球に到来している証拠が得られたと,去る6月末に同時発表した。

この「背景重力波」は周波数が低いほど重力波が強くなる傾向が見られる。このようなスペクトルを持つ背景重力波はどのようにして形成されたのか。理論研究から複数の候補が挙げられているが,その中で最も有力視されているのが多数の巨大ブラックホール連星を発生源とする説だ。ただ,背景重力波の一部または全部を,宇宙誕生直後に起きた相転移に由来する重力波で説明できる可能性もある。

続きは日経サイエンス2023年11月号にて

協力:高橋慶太郎(たかはし・けいたろう)
熊本大学教授(大学院先端科学研究部理学専攻物理科学講座)。パルサーを用いた背景重力波の研究のほか,宇宙論と宇宙再電離,宇宙磁場,系外惑星などの研究を進めている。日本の近代天文学の歩みにも関心があり,日本天文学会の月刊誌の「天文学者たちの昭和」と題したシリーズでパイオニア研究者のロングインタビューを行っている。

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