日経サイエンス  2023年11月号

特集:ついに捉えた背景重力波

宇宙の灯台パルサーで時空のうねりを照らし出す

中島林彦(編集部) 協力:高橋慶太郎(熊本大学)

天文学の歴史に新たなページを加える観測結果を2023年6月,米国・カナダ,欧州,オーストラリア,中国,インド・日本の5つのグループが同時に発表した。宇宙は重力波で満ちあふれていることが,世界各地の大型電波望遠鏡を用いた約20年に及ぶ観測で明らかになった。「背景重力波」という。

重力波は時空のさざ波ともいわれるが,背景重力波は「さざ波」というより「うねり」と表現した方がぴったりする。その波長は数光年から数十光年にも及ぶからだ。言い換えると宇宙のあらゆる場所は背景重力波によって,数年から数十年という周期で非常にゆっくりと空間が伸び縮みしている。その存在を明らかにするため,天文学者は銀河スケールの観測プロジェクトを考案した。天の川銀河に散らばる,精密時計のように決まった時間間隔で電波をパルス状に出す天体「パルサー」と地球を結ぶ直線を,空間の伸縮を計る測線として利用するのだ。

「パルサータイミングアレイ」と呼ばれる観測法で,PTAと略称される。数百光年~数千光年の距離にある数十個のパルサーに電波望遠鏡を向け,地球に到来するパルス状の電波を非常に高い時間分解能で測定する。観測は長期にわたって定期的に行う。背景重力波が宇宙に遍在していれば,それらのパルサーと地球の間の直線距離も数年~数十年周期で伸び縮みしているはずなので,パルサーから出たパルスが地球に到着するタイミングが,その距離変動に応じて,予想される時刻よりも遅れたり早まったりするだろう。本当にそうした現象が起きているのか,長期間の観測で得た膨大なデータを解析して,その証拠を見つけようというのがPTAの狙いだ。

続きは日経サイエンス2023年11月号にて

協力:高橋慶太郎(たかはし・けいたろう)
熊本大学教授(大学院先端科学研究部理学専攻物理科学講座)。パルサーを用いた背景重力波の研究のほか,宇宙論と宇宙再電離,宇宙磁場,系外惑星などの研究を進めている。日本の近代天文学の歩みにも関心があり,日本天文学会の月刊誌の「天文学者たちの昭和」と題したシリーズでパイオニア研究者のロングインタビューを行っている。

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