
米国は毎年およそ1200の竜巻に襲われる。世界でも突出して竜巻が多いのは,その地理が竜巻発生に申し分のない状況を生み出すからで,特に春と夏にそれが顕著だ。太平洋からの湿った西風がロッキー山脈にぶつかって雨を降らせ,上空で冷たく乾いた空気となり,山脈を越えてさらに東に流れる。同様の冷たい風は北のカナダからも吹き降りてくる。一方,メキシコ湾からは暖かく湿った空気が低空を北に向かって流れてくる。これらの風は平坦な地形の上を進むので乱されにくく,そのまま進んで,ついには上空の風と低空の風が交差するようにぶつかる。この角度を持った衝突は大気を不安定にし,ウインドシア(風向きと風速の急激な変化)が生じる。これらは竜巻の発生に有利に働く2大要因だ。ウルグアイやバングラデシュなど他の場所でも同様の気団の衝突が起こっているが,風力は米国上空のほうがはるかに強い。カナダがこれに次ぎ,年間に100件の竜巻がある。
竜巻は米国の東半分の多くの場所で発生しているが,1950年代から1990年代にかけて特に多発した地域は「竜巻街道」と呼ばれるようになった。テキサス州北東部からオクラホマ州南部を中心とする楕円形の領域だ。この竜巻街道が,近年は650~800kmほど東へ移っている。過去10年,ミズーリ・アーカンソー両州の東部,テネシー・ケンタッキー両州の西部,ミシシッピ・アラバマ両州の北部で竜巻が多発するようになった。新たな竜巻集中地帯だ。
この傾向は今年2023年の前半に典型的に表れている。3月24日,風速76m(時速274km)の猛烈な竜巻がミシシッピ州ローリングフォークを襲い,26人が死亡。その1週間後,新竜巻街道で発生した複数の竜巻によって30人以上が亡くなり,4月4日には別の竜巻群がミズーリ州ボリンガー郡で80を超える建築構造物を損壊した。これらは本格的な竜巻シーズンのほんの序の口の時期に起こった。
単発の竜巻に加え,1つの気象系から複数の竜巻が生じる大規模なアウトブレイクの例も東へ移動していることが,過去2年の観測データからはっきりと示されている。旧竜巻街道に比べ,より狭い地域に集中して集団で発生するようになった。強度と頻度も増しているようだ。
続きは2023年10月号誌面で。
著者
Mark Fischetti
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「再生可能エネルギーにベストな送電網」,P. フェアリー,日経サイエンス2018年11月号。
原題名
The New Tornado Alley(SCIENTIFIC AMERICAN July/August 2023)
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ウインドシア/竜巻街道/スーパーセル/ドライライン/鉛直シア/改良藤田スケール