
娘のクララの7歳を祝う誕生日パーティーは,見慣れた光景であると同時に奇妙な光景でもあった。新型コロナに配慮して親しい友人や家族だけの少人数で集まって,ピザなどの軽食をみんなで分け合って食べ,アイシングたっぷりの甘いケーキに立てられたろうそくをニコニコ顔の子供が吹き消す。世界中で毎日およそ38万人の少年少女が7歳を迎え,地球上で最も繁栄している霊長類が世界中で絶え間なく「ハッピーバースデー」の歌を歌ってこのお祝いの儀式を執り行っている。
私たちの現代生活のほぼすべての側面が,地球上の他のすべての種を支配している法則から信じられないほど外れており,この誕生日パーティーも例外ではなかった。並べられているケーキなどの食べ物は自然の産物とは思えない代物ばかりだった。これらの食べ物は野生環境で食物を探す動物たちには夢見ることしかできないカロリーの宝庫であり,私たちはそれを同じ遺伝子を持たない赤の他人にも分け与えているのだ。
私たちの最も近い親戚である類人猿は,木から摘み取った果物や葉をそのまま食べ,時には昆虫や小さな獲物を口にする。他の哺乳類と同様,類人猿も自活のやり方を早くから学び,乳離れするとすぐに自力で食料を採集し,苦労して得た食料を手放すようなまねはしない。人類が他の類人猿と分かれてから400万年の間に存在した早期人類の化石から,私たちの祖先も初期にはこれと同じ生態学的ルールに従って生活していたことがわかる。
約250万年前,ホモ属の初期の集団は,草食者または肉食者,あるいは雑食者として生きるのではなく,奇妙な二重戦略を試すことにした。ある者は狩りをし,ある者は採集をし,手に入れたものを分け合うという戦略だ。
続きは2023年10月号誌面で。
著者
Herman Pontzer
デューク大学進化人類学教授。進化が人間の生理と健康をどのように形成してきたかを研究している。著書に「Burn: New Research Blows the Lid Off How We Really Burn Calories, Stay Healthy, and Lose Weight」(Avery,2021年)。
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