
遠く離れた天体のひとかけらを手にするのはどんな気分だろう? 何人かの幸運な科学者は近くそれを知ることになる。米航空宇宙局(NASA)の探査機オシリス・レックス(OSIRIS-REx:Origins, Spectral Interpretation, Resource Identification, Security-Regolith Explorerの略)が7年間のミッションを経て地球に帰ってくる。地球近傍小惑星ベンヌの表面で採取した1カップほどの小石と土を収めた容器を地球に投下する予定だ。
「ベンヌは初期太陽系を現在に伝えるタイムカプセルであり,それを開ける時がいよいよ来る」と,同ミッションの研究分担者であるNASAジェット推進研究所の同位体地球化学者ホフマン(Amy Hofmann)はいう。「そこに入っているものを誰よりも先に見るのが私たちのチームだ。ワクワクして鳥肌が立ってくるよ」。
オシリス・レックスが持ち帰る積み荷の一部は約200人の科学者に分配される予定で,ホフマンはその1人だ。探査機は9月24日にサンプルリターン・カプセルを投下し,カプセルは大気圏に突入した後にパラシュートを開いて米国防総省のユタ試験訓練場に着地することになっている。
順調に進めば,回収チームがカプセルをヘリコプターで可搬型クリーンルームへ運んで耐熱シールドと背面カバーを取り外した後,ヒューストンのジョンソン宇宙センターに特別に設けられた施設へ空輸する。異物が混入しないよう,そこのグローブボックスで注意深く開封され,手つかずで地球に届いた小惑星のかけらが回収される(初期太陽系の状況を伝える試料としては隕石も優れているが,無防備で大気圏に突入するために性質が変わってしまう)。
このサンプルは太陽系が生まれた当時の状態を明らかにしてくれるだろう。生物にとって重要なアミノ酸などの化学物質のうち,どれが存在していたかなどの情報だ。「オシリス・レックスのO(Origins)はまさに生命の起源の意味だ」と同ミッションの研究責任者を務めるアリゾナ大学のローレッタ(Dante S. Lauretta)はいう。「これら炭素質の小惑星が地球に生命の前駆物質をもたらすのに果たした役割を理解したい」。
続きは2023年10月号誌面で。
著者
Clara Moskowitz
関連記事
「オシリス・レックス 米国版はやぶさの挑戦」,D. S. ローレッタ,日経サイエンス2016年10月号
原題名
Asteroid Delivery(SCIENTIFIC AMERICAN July/August 2023)