
あなたがはめているプラチナや金の指輪には,宇宙における大きな謎が秘められている。そうした重元素が生まれる場所を突き止めるため,銀河宇宙がくまなく探されてきた。軽い元素,具体的には原子1個に陽子2個を持つヘリウムから,陽子26個を持つ鉄までの元素の起源はかなりわかっている。それらの大半は星内部の核融合で作られる。一方,鉄より重い元素については,私たちの知識は曖昧になってくる。原子1個に陽子79個を持つ金はそうした方法では作られない。白金(プラチナ)やキセノン,ラドン,多くのレアアースも同様だ。
こうした重元素の起源やそれらが地球に存在するようになった理由について,数十年にわたって議論されてきた。最も有力な仮説は,宇宙で起こった非常に激しい現象が引き金となった「速い中性子捕獲(r過程)」だ。最近まで,この説には観測的証拠がなかった。状況が変わったのが数年前,中性子星合体の際の重力波が検出され,同時に電磁波も観測された。この電磁波には重元素の化学的な特徴が表れており,この仮説を裏付ける初めての証拠となった。観測結果は重元素合成プロセスの詳細を理解するのにも役立っている。
続きは日経サイエンス2023年9月号にて
著者
Sanjana Curtis
天体核物理学者で,元素の起源とマルチメッセンジャー天文学に関心がある。シカゴ大学天文学・天体物理学科のポスドク研究者。
関連記事
「中性子星の中はどうなっているか」,C. モスコウィッツ,日経サイエンス2020年1月号。
「重力波の本命 連星中性子星合体を観測」,中島林彦,協力:田中貴浩,日経サイエンス2018年1月号。
「貴金属の起源をとらえた」,中島林彦,協力:田中雅臣,日経サイエンス2018年1月号。
原題名
Cosmic Alchemy(SCIENTIFIC AMERICAN January 2023)
サイト内の関連記事を読む
キーワードをGoogleで検索する
r過程/s過程/連星中性子星/マルチメッセンジャー天文学/重力波/GW170817/キロノヴァ/中性子ドリップライン/ガンマ線バースト