
昆虫は意外と賢い。米粒ほどの小さな脳を駆使しながら,時々刻々と変わる状況を知覚して素早く判断する。ネット上の情報を学び,大規模なコンピューターで問題を解く最先端のAIとは対照的だ。昆虫が進化を通して獲得してきた「効率脳」には,AI時代に考えたい自然の叡智が詰まっている。小さいからこそ,知能の本質にも迫れる。昆虫とロボットを組み合わせた「サイボーグ昆虫」やスーパーコンピューター「富岳」のシミュレーションからは,複雑な情報を処理する仕組みが見えてきた。学習や記憶といった脳の高次機能を解き明かす手がかりも得られる。そんなにも賢いのだから,昆虫にも「心」があるのではないか。その行動をひもといていくと,喜びや苦痛を感じる知覚力をもつことを示唆する結果が得られ,研究者たちは昆虫の内的な世界にも目を向け始めている。知能とは何か。心とは何か。昆虫の小さな脳から探る。
昆虫たちの頭の中 AI時代に考える効率脳
遠藤智之 協力:神崎亮平/加沢知毅/名波拓哉
昆虫に心はあるか ハチが感じる喜びと苦痛 L. チッカ