米どころ新潟の越後平野が眼下に広がり,遠く弥彦山の秀麗な山容を望む新潟県三条市の永明寺山(ようめいじやま,標高123m)。山頂部の開けた緑地の中央に「観測日食碑」と銘打たれた古い石碑が立っている。この地で今から約140年前の明治20年(1887年),日本で最初の近代的な日食観測が行われた。得られた太陽コロナの写真は英国王立天文学会の紀要に大きく載り,世界の天文学者の注目を集めた。日本の近代天文学の黎明期を知るうえで重要な場所だ。(文中敬称略)
当時の記録によると朙治20年8月19日午後3時39分頃,皆既日食が始まり,黒い太陽が約3分間にわたって輝いた。「暫時にして浮雲また散じ,日光ようやく減じて弦となり弧となり,ついに全く滅して皆既となるや,紅峯(プロミネンス)にわかに現れ,白光(コロナ)たちまち発するに及びて,四方より歓喜の声,一時に湧くが如くごうごうとして,時辰儀(高精度の機械時計)の打秒も聞くこと能わざるに至れり。このとき天気は全く快晴なりければ,皆既の現象は十分に窺うことを得たり」。(続く)
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