
暑いときに温かいルイボスティーを飲むのも悪くない,と間瀬真知香(ませ・まちか)はカップを手にした。何戸家奈留沙(なんとか・なるさ)と夏太(なつた)がいつものように元気よく部屋に入ってきたので,こう始めた。
「おはようございます。今日は,食べ物を公平に分ける等分割の方法について考えましょう」
◎長方形を2等分する
「お二人は,ケーキとかお好み焼きを切って家族で分けて食べるとき,大きさの大小で争いになりますか」
真知香が笑みを浮かべながら聞いた。
「最近は争いがなくなりました」と夏太が即答した。
「小さい頃は相手の方が大きく見えてバトルしていたかも。でも私が切って,大きい方を夏太に選ばせていた時期も長かったような……」と奈留沙はお姉さんの回答をした。
「食べ物,特にお菓子に対して子供の目は厳しいですからね。ちょっとでも同じ大きさに見えなかったらすぐにクレームがきます(笑)。みなが納得する等分割というのは技術的になかなか難しいですよね。現実的には,切った人が待っている人に選ばせてあげて,切る人を毎回交代するのが精神的にみなの不公平感が小さくなるでしょう。公平にするための大前提は,等分に分割して配ることです。紙に描いた図形の面積の分割と違って難しいのは,立体であるケーキなどを目分量で等分割しなければならないことです」
二人は,そうそうと大きく頷いている。真知香は続けた。
「まずは,ケーキを2等分することから考えましょう。ロールケーキの2等分は簡単ですね。真上から見ると長方形ですから,普通は①のように縦線で2等分するでしょう。もちろん数学的には横線②でも対角線③でも,または④のように長方形の中心を通る直線であれば2等分できます」
◎円を2等分する
真知香は続けて,二人に円形のケーキを見せながら聞いた。
「このような,上から見ると円形になるケーキを2等分するにはどうすればよいですか」
「円の中心を通る線で切ればよいです」
夏太が答えると,奈留沙が,それは直径ね,と補足した。
「はい。このケーキ,レアチーズの白い部分,それが円だとしましょう。でも中心はわかりません。この場合,直径はどうやって引いたらよいでしょうか」と真知香が聞いた。
「中心を求めればよいです。円の上に異なる3点をとって,隣り合う2点を結ぶ線分の垂直2等分線2本を引けばその交点が中心です……。いや,紙の上ならこれで中心は求まりますが,ケーキの上では垂直2等分線を引くのは難しいです」
奈留沙は,三角形の外接円の中心,つまり外心を求めるやり方でケーキの中心を求めようとしたが,撤回した。定規やコンパスを使える紙の上と同じ考えではうまくできないと気が付いたからだ。
「そうなんです。もし紙に描いてある円だったら,手っ取り早く,円を半分に折りたたんでしまえば,折り目が直径になります。でもケーキは折りたためません。そこで,紙とかケーキを入れていた箱とか,直角があるものを使って次のように直径の端点を求めます」
真知香は,円形のケーキの円周に紙のかどを合わせてみせた。2つの○は,紙と円の交点だ。
「紙のかどは直角だから,紙と円の交点を結べば直径になるのですね」
夏太は円周角の定理に気が付いて,嬉しそうに声をあげた。
「場所を変えて2回繰り返せば,円の中心も求まるし」
夏太はそういって,紙にそのやり方の図を描いた。
一方,奈留沙は,横においてあるバウムクーヘンを見ながらいった。
「紙の直角を使う方法なら,バウムクーヘンのように穴が開いていても問題なく直径が求まりますね」
「はい。レアチーズケーキなら,中心に目印の楊枝を刺すこともできます。でも,バウムクーヘンだと中心は空洞ですから,中心を決めてから中心を通る線を引くというやり方ができませんよね」
真知香も賛同していった。
◎長方形を3等分する
「次にケーキを3等分することを考えましょう。まずはロールケーキから。」
続きは日経サイエンス2023年7月号にて
間瀬 真知香(ませ・まちか)フリーの実験数楽者 何戸家 奈留沙(なんとか・なるさ)高校2年生 何戸家 夏太(なんとか・なつた)高校1 年生。奈留沙の弟