
1967年,化学メーカーのデュポンはオフィスビルのワンフロアの内壁を取り払い,低いパーティションで区切られただけの大部屋にほぼ全員を押し込んだ。このフロアは企業がオープンオフィスを大規模に取り入れた米国初の例であり,ドイツの建築デザイナーが提唱する最新の考え方に従っていた。企業はますます「知識労働者」に頼るようになり,彼らは企業内の階層構造に苛立ち,より多くの協業の機会を必要としているという考え方だ。
デュポンでオープンフロアが導入されたのは「フレオン(フロンの商標)冷媒部」だった。その後,フレオンは1987年から姿を消し始めたが,オープンオフィスは広く浸透していった。ある調査によると,2020年には米国の知識労働者の2/3がオープンオフィスで働いている。
だが,ほとんどの労働者はそれを望んでいない。また,オープンオフィスがその主要な目的である「協業の促進」を実現できないことは現在でははっきりしている。それどころか,従業員をむしろ孤立させているようだ。さらに,職場での性差別を助長し,健康問題を引き起こす恐れもある。
オープンプランがよいアイデアではないということを企業の不動産担当マネジャーに納得させるのに,COVIDのパンデミックほど説得力のある“実験”はない。以前はオフィスで仕事をしていた人のほとんどが自宅でも遜色なく働けることが証明された。パンデミックはまた,オープンオフィスが細菌だらけのペトリ皿であることを人々に再認識させた。
2021年に実施された調査では,回答者の1/3近くがこのまま在宅勤務を続けたいと答え,半数がハイブリッド勤務を希望した。こうした新しい働き方は企業のオフィス戦略を覆している。1人当たりの作業スペースを数cmずつ削ることによってより多くの従業員を押し込んでいた企業は,いまや半分が空席になったオフィスを抱えている。
現在,建築デザイナーたちは,オープンオフィスという考え方ではなく,その実行の仕方を見直している。特に力を入れているのは多様な働き方への対応だ。この傾向は,聴覚障害者や自閉症者,従来のオフィスで苦労してきた人々の支援を目指すインクルーシブデザインに向けた動きと重なる。彼らの不快感や生産性の問題を軽減するデザイン変更のなかにはオープンオフィスにも応用できるものがある。そうしたデザインを採り入れれば,オフィス環境を改善できるかもしれない。
続きは日経サイエンス2023年7月号にて
原題名
Why People Hate Open Offices(SCIENTIFIC AMERICAN April 2023)
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