
「赤ちゃんはパパ・ママが大好き」こんなフレーズを見たり,聞いたりしたことがある人は多いだろう。「大好き」と思う気持ち,すなわち愛情は,友達や恋人,夫婦など様々な社会関係をもたらすが,人が人生において最初に感じる愛情は,赤ちゃんが親に対して抱くそれである。親に対する愛情の芽生えは,長じてからパートナーに対して抱く愛情とも関わり,極めて重要なプロセスだ。
もちろん,赤ちゃんが生まれながらにして親への愛情を持っているわけではない。日々のつながりの中で赤ちゃんは親を特別な存在と認識し,愛するようになる。生まれて間もない乳児が,一体どのようにして親への愛情を持つようになるのだろうか? その過程を科学的に検証するのは,相手が言葉をまだうまく話せないだけに,困難を極めていた。
一方で,生育環境が子どもに及ぼす影響は古くから調べられており,長い歴史がある。孤児や虐待児などの調査によって,親あるいは主要な養育者と適切な関係が構築できないと子の健康な心身発達が阻害されるというのは,この分野の共通認識になっている。
さらに昨今では情報通信技術の進展によって,乳幼児の日常の自然な反応を継続的にセンシングし,得られたビッグデータを解析することも可能になってきた。これまで聞き取り調査や観察を中心に蓄積されてきた状況証拠と,脳神経科学を中心に見いだされたメカニズムがつながり始め,注目の研究分野になりつつある。
本稿では,赤ちゃんに愛情が芽生えるプロセスを,「親との身体的な触れ合い」を切り口に考察していくことにしよう。
続きは日経サイエンス2023年7月号にて
著者
吉田さちね(よしだ・さちね)
東邦大学医学部解剖学講座微細形態学分野講師。2001年筑波大学卒業。一般企業を経て2008年同大学大学院修了。博士(神経科学),保育士,臨床発達心理士。理化学研究所,東京大学,JSTさきがけ研究者などを経て2020年より現職。問い合わせや研究への参加希望は[email protected]まで
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「チャウシェスクの子どもたち 育児環境と発達障害」,C. A. ネルソンほか,日経サイエンス
2013年8月号。
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