日経サイエンス  2023年7月号

特集:進化する植物愛

葉の形はどう決まるのか

遠藤智之(編集部) 協力:塚谷裕一(東京大学)

光合成をして生きる植物にとって,葉はなくてはならない存在だ。いかに効率よく光を浴び,より多くの有機物を生産するか。長い進化の歴史のなかで,植物は多様な葉の形を編み出してきた。例えば,ヒマワリは幅が広い大きな葉をつけて,イネは細長い葉をびっしりと立てる。葉の形はどのように決まるのだろうか。

葉の形作りを研究する東京大学教授の塚谷裕一は「細胞分裂する場所や速度の違いが決め手になっているようだ」と説明する。どんな形状の葉であっても,形を決める基本的な仕組みは共通している。植物の多くは葉の根元に細胞分裂組織をもち,ここから細胞を次々に押し出すようにして葉を作っている。葉の先端には古い細胞があり,根元にいくほど新しい細胞になっている。細胞分裂が盛んだった時期に作られた部分は幅広く,穏やかだと細くなる。「葉」といわれて多くの人が思い浮かべる楕円形や,先端が細くなったスペードの形は,こうした細胞分裂の速度変化の違いを反映しているとされる。

「同じ環境なら最適な葉の形があるはずだが,植物は種ごとにそれぞれ固有の形を守っている。1枚の葉を見るだけでどの種か判別できるほど,種内で安定している。変化する余地があるにもかかわらず,とても保守的に感じられる」と塚谷は語る。葉の大きさや構造を柔軟に変えるシステムをもつ一方で,植物は自身の葉の形状になぜこんなにも頑固なのだろうか。葉の形作りの不思議をひもとくと,植物の戦略や葛藤が見えてくる。



続きは日経サイエンス2023年7月号にて

協力 塚谷裕一(つかや・ひろかず)
東京大学教授。専門は発生遺伝学。葉の形作りから植物の多様性に迫る。ボルネオ島など熱帯地域にも赴き,菌従属栄養植物など多くの新種も発見している。

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