日経サイエンス  2023年6月号

特別解説

覆る直立二足歩行の進化史 人類が試した多様な足取り

J. デシルヴァ(ダートマス大学)

私たちの祖先は大きな脳や言語を進化させるはるか以前に,さらには火の使用や石器製作よりも前に,それまでどんな哺乳類もやらなかったことを始めた。二足歩行だ。直立歩行への骨格の適応は700万年前から500万年前の最初期のホミニン(ヒト族:現生人類と絶滅した近縁種を含む分類)の化石に表れている。四足歩行から二足歩行への移行は,私たち人類のその後の進化の下地を築いた。それによって私たちの祖先は生息域を広げ,食べる物も多様になり,出産や子育ても変わった。この特異な歩行様式は,ヒトを無二の存在としているほぼすべての特徴の礎となった。

人類進化の象徴的な図には,4本の手足を使って歩くチンパンジーのような祖先から始まって,次第に立ち上がり,最後には完全に直立して2本足で堂々と歩くホモ・サピエンスが描かれている。1960年代に広まったこの「人類進化の行進」とその類似イメージは,書籍やTシャツ,車のバンパーステッカー,マグカップなど数知れない多くのものに描かれてきた。

しかし古人類学のここ20年の発見で,科学者たちはこの従来の直線的なイメージの描き直しを迫られている。アフリカ各地の異なる環境に生息していた複数のホミニンが異なるスタイルの二足歩行を進化させ,それらの人類が同時期に生きていた例もあることがわかった。二足歩行するホミニンが最初に現れたとき,この移動様式が異なる人類種で繰り返し出現する長い進化の道のりが始まった。私たち現代人の歩き方はあらかじめ決まっていたわけではなく,ある1つの最終目標に向かって祖先たちが順々に歩んできたわけでもない(なにしろ,進化に計画はない)。今の歩き方はむしろ初期のホミニンたちが試行錯誤した数々の直立歩行の1つであり,それが最終的に主流となっただけなのだ。

続き日経サイエンス2023年6月号にて

著者

Jeremy DeSilva

ダートマス大学の古人類学者。研究テーマは二足歩行の進化。著書に『直立二足歩行の人類史 人間を生き残らせた出来の悪い足』(文藝春秋,2022年)がある。

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人類の起源を求めて 様変わりした進化史」,K. ウォン,日経サイエンス2021年1月号。

原題名

Walks of Life(SCIENTIFIC AMERICAN November 2022)

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