
探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」で採取したサンプルからは,液体の水や多様な有機物が見つかった。生命活動に欠かせない核酸やタンパク質の材料もごく微量だが検出された。小惑星が隕石となって太古の地球に降り注ぎ,こうした生命の材料をもたらしたとする説を後押しする成果だ。
生命の材料は隕石でも見つかっていたが,これまでは地上で混入した可能性も否定できなかった。はやぶさ2のサンプルは地球の大気にほとんど触れずに解析され,過酷な宇宙空間でも生命の材料が壊れずに安定して存在することを示す初めての直接的な証拠となった。
リュウグウのような小惑星が水や有機物を届けた先は,太古の地球だけではなさそうだ。太陽系の別の惑星や衛星にも目を向けると,かつて地球に似た環境があったとされる火星のほか,氷で覆われた海があるかもしれない木星や土星の氷衛星でも,生命の痕跡が見つかると期待されている。小惑星が生命の材料を太陽系に広く供給し,地球生命に限らず「宇宙生命」が誕生する出発点になっていたというシナリオが描けるようになってきた。
続きは日経サイエンス2023年6月号にて
協力 渡邊誠一郎(わたなべ・せいいちろう)
名古屋大学教授。はやぶさ2のプロジェクトサイエンティストを務めた。専門は惑星科学,惑星系形成論,水惑星学,数値シミュレーション。
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