日経サイエンス  2023年6月号

特集:宇宙生命

異星の海/木星アート

R. ボイル(フリージャーナリスト) SCIENTIFIC AMERICAN編集部

2005年,土星を訪れた探査機カッシーニは予想外の環境のなかを通過した。細かな水滴からなる霧だ。氷で覆われた土星の衛星エンケラドスの表面にある割れ目から,時速1290kmで宇宙空間に噴き出していた。カッシーニはこれを採取する設計にはなっていなかったが,この発見をきっかけに,太陽系外縁部の氷衛星を探査する新たなミッションが計画されることになった。氷の外殻とその下の温かな核との間に液体の水からなる海がサンドイッチになって存在している衛星が,少なくとも6つ考えられる。2つは土星を,3つは木星を,もうひとつは海王星を周回している衛星だ。

地球において,水は“私たちが知る生命体”に欠かせない。過去半世紀にわたって生命が探索されてきた火星の砂丘を除くと,太陽系で生命を探すのに最もふさわしい場所は,これら外惑星の氷の衛星だろうと考えられている。

この4月,欧州宇宙機関(ESA)の木星氷衛星探査機JUICEが打ち上げられ,この巨大ガス惑星の衛星であるエウロパとカリスト,ガニメデに向かう予定だ。JUICEと,米航空宇宙局(NASA)が木星とエウロパに向けて2024年に打ち上げる予定の「エウロパ・クリッパー」は,太陽系外縁部に関する理解を変えるだろう。これらの氷衛星は,天文学者が17世紀にそれらを発見したときと同様,私たちの宇宙観を書き換える可能性がある。

エウロパとエンケラドスの半ば凍った泥のなかや,ガニメデの地表下にある塩水の海,タイタンの地表下を流れるメタンとエタンの川,さらには凖惑星のケレスと冥王星の深いクレーターの底にある塩水のなかにも,生物が栄えている可能性がある。これらの海洋天体を覆う氷の外殻は,液体の水に満たされた小さな隙間を含んでいると考えられる。そしておそらく微生物も含まれているだろうと,NASAジェット推進研究所の宇宙生物学者マラスカ(Mike Malaska)はいう。木星系のエウロパとガニメデ,カリスト,土星系のエンケラドスとタイタン,海王星の衛星トリトンの6つについて,それぞれの注目点を図解する。

そして,NASAの木星探査機ジュノーのカメラがとらえた画像にアマチュア科学者がひとひねりを加えた作品を紹介する。



続き日経サイエンス2023年6月号にて

著者

Rebecca Boyle

コロラド州在住の受賞歴のあるフリージャーナリスト。地球と月の歴史的関係をテーマにした著書「Our Moon: How Earth’s Celestial Companion Transformed the Planet, Guided Evolution, and Made Us Who We Are」(ランダムハウス)を近く出版予定。

原題名

Alien Oceans/Planetary Art(SCIENTIFIC AMERICAN May 2023)

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