
太陽系のどこかにいる地球外生命を見つけようというなら,木星の大きな氷の衛星で探すのがよい。
そうした氷衛星の表面下には広大な海が隠れており,木星の強い重力場でゆすられて液体の状態を保ち,厚い氷床によって木星の過酷な放射線帯から守られていると考えられている。「私たちは地球上で,水が存在する場所にはたいてい生命が見つかることを学んだ」と英オープン大学のフォックス=パウエル(Mark Fox-Powell)はいう。「太陽系に目を向けると,地球以外に液体の水が存在している場所は実質的に,木星および土星の衛星に限られる」。
現在衆目を集めているのは木星のほうだ。その衛星のハビタビリティー(生命の居住可能性)を調べる新たなミッションが,いままさに始まろうとしている。欧州宇宙機関(ESA)の木星氷衛星探査機JUICE(JUpiter ICy moons Explorerの略)が南米の仏領ギアナに運ばれ,4月の打ち上げを待っている。
この探査機は2031年7月に木星系に到着し,10種類の科学観測装置を用いて4大衛星のうち3つ,エウロパとガニメデ,カリストを調べる。いずれも地表下に海を擁しているとみられる天体だ。太陽系最大の衛星であるガニメデの調査が中心で,偵察飛行の後,2034年にガニメデを周回する軌道に入る予定。「ガニメデのハビタビリティーがどんなものか,特徴をつかむ」とJUICEチームの一員である英レスター大学のバンス(Emma Bunce)はいう。
木星を視野に入れている宇宙機関はESAだけではない。JUICEのもとになったのは,ESAと米航空宇宙局(NASA)が共同で準備した「エウロパ・ジュピター・システム・ミッション」という計画だ。ガニメデに焦点を絞った探査機を欧州が建造し,NASAはエウロパの探査機を作る分担だった。だが予算の問題からNASAは2010年代初めに手を引き,欧州単独の事業となった。救いが現れたのは2013年,NASAのエウロパ探査計画が米国議会から改めて支持を得て資金を獲得したときだ。これが最終的に2024年打ち上げ予定の「エウロパ・クリッパー」となった。
この2つのミッションによって,木星とその衛星に関する知識はかなり増えるだろう。探査機はこれらの天体の表面下に潜む海のどこかに生命が存在しうるかどうかを示し,後の探査の基礎を築く。
続きは日経サイエンス2023年6月号にて
著者
Jonathan O’Callaghan
フリージャーナリスト。商業宇宙飛行や宇宙探査,天体物理学に関する記事を執筆している。
原題名
Missions to the Moons(SCIENTIFIC AMERICAN May 2023)
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