
レーザーを使って原子を静止させ
そのエネルギー状態を操って演算する
新たな方式で量子コンピューターのブレイクスルーを狙う
2023年3月27日に初の国産量子コンピューターが理化学研究所で稼働するなど,量子コンピューターをめぐる内外の動きが目まぐるしい。そんな中,「冷却原子」という新方式の量子コンピューターの研究開発で世界をリードするのが,愛知県岡崎市にある自然科学研究機構・分子科学研究所教授の大森賢治が率いる研究グループだ。冷却原子方式の難点だった演算操作の遅さを克服する独自技術を編み出し,最有力方式の一角に浮上した。
大森はこの2月,米国の大学などに招かれ,量子コンピューターの研究開発拠点を歴訪した。訪問先はシカゴ大学にある量子技術の研究開発コンソーシアム Chicago Quantum Exchangeやハーバード大学,マサチューセッツ工科大学(MIT)など。MITでは,原子気体のボース・アインシュタイン凝縮の業績でノーベル物理学賞を受賞したケターレ(Wolfgang Ketterle)のオフィスに招かれ,独自技術の「発想の経緯など色々聞かれた」という。
きっかけは2022年8月,大森らがNature Photonics誌に発表した冷却原子を用いた量子コンピューターの研究成果だ。量子コンピューターは,現在は基本の構成要素である量子ビットに超電導素子を用いる方式が主流だが,これが最適解かどうかはまだわからない。空中に浮かせたイオンの列を用いるイオントラップ方式など,様々な実装の方法が模索されている。
大森が進めている冷却原子方式の量子コンピューターは,ケターレがボース・アインシュタイン凝縮を実現するための鍵となった「レーザー冷却」という技術を用いる。ルビジウムなどの原子気体にレーザー光を照射して真空中に静止させ(つまり極限まで冷やし),その1個1個を量子ビットとして用いる。この原子にレーザー光を照射して励起したり,光で原子を捉える「光ピンセット」技術で原子を移動させて原子どうしを近づけ,レーザー光によって相互作用させたりすることで演算する。
続きは日経サイエンス2023年6月号にて
大森賢治(おおもり・けんじ)
分子科学研究所教授。1962年熊本県生まれ。1987年東京大学工学部卒業。1992年同大学院工学系研究科博士課程修了。東北大学助手・助教授を経て2003年から現職。2009年米国物理学会フェロー表彰,2012年フンボルト賞,2021年紫綬褒章など受賞多数。レーザーでミクロな物質の量子の波の振る舞いを超高精度で制御・可視化する技術を開発。
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