日経サイエンス  2023年6月号

ニュース解説

量子コンピューター 日本の初号機が稼働

古田彩(編集部)

2023年3月,埼玉県和光市にある理化学研究所で日本の量子コンピューターの初号機が公開された。白いドラム缶のような冷凍機の中には,絶対零度(−273℃)近くに冷やされた量子コンピューターチップが入っており,量子の重ね合わせを利用した並行計算を実行する。

チップには縦横8個,合計64個の超電導量子ビットが並んでいる。ただし11個は設計からのズレなどのため動作せず,使えるのは53量子ビットだ。性能の指標となるコヒーレンス時間(量子的な重ね合わせを保って計算できる時間)は10〜20マイクロ秒で,世界のトップランナーに比べると1桁低い。

だがこの量子コンピューターの最大の目的は,量子ビットを1000個,1万個と大規模化し,最終ゴールであるFTQC(Fault Tolerant Quantum Computer=エラー耐性量子コンピューター)につなげる理論と実験のテストベッドとすることにある。そのため開発当初の性能よりも,大規模化を可能にする新たな設計の実装を目指した。

さらにパソコンからクラウドで利用できるようにするため,入力されたプログラムにしたがって量子ビットを制御し出力を返す全工程を,自動的に実行するシステムを自前で作り上げた。今後の研究の進展を,速やかに実機に反映させる体制が整ったといえる。

研究者たちは,部分的にエラー訂正ができる1万量子ビット級の量子コンピューターの実現を見据えている。量子コンピューターの最終目標である本格的なFTQC(エラー耐性量子コンピューター)の実現はまだ先の話だが,そこに至る道筋は徐々に見え始めた。


続き日経サイエンス2023年6月号にて

関連記事
特集「量子コンピューター最大の壁 『エラー訂正』」藤井啓祐,Z. ナザリオ,日経サイエンス2022年8月号。
特集「量子超越 グーグルが作った量子コンピューター」,古田 彩,御手洗光祐,日経サイエンス2020年2月号。
特集「量子コンピューター最前線」,古田 彩,日経サイエンス2018年4月号。

サイト内の関連記事を読む

キーワードをGoogleで検索する

FTQCエラー耐性量子コンピューターEarly-FTQCNISQエラー訂正エラー抑制超電導量子ビット