
「圏論」は別種の数学的対象を“同じ”とみなすための枠組みを提供してくれる数学の一分野で,1940年代にサミュエル・アイレンベルグとソンダース・マックレーンによって生み出された。圏論の基本定理によれば,どんなに複雑な数学的対象であってもそれは同種の対象との関係性によって完全に決定される。数学者は圏論を通して,つまり数学に遍在する「圏」に広く適用できる一般法則を用いることで数学を俯瞰し,多種多様な数学的対象を統一的に扱うことができる。
数学の発展とともに,2つの対象がどのような場合に“同じ”であるかに対する数学者の見方は広がってきた。この数十年間,著者を含む多くの研究者が圏論の拡張に取り組み,この拡張された同一性の概念を定式化している。この新たな圏の概念は「無限圏(∞-圏)」と呼ばれ,圏論を無限次元に拡張したものだ。従来の圏論では対象どうしの関係が微妙すぎて定式化できない場合があるが,∞-圏の言語はそのような状況が発生する問題を研究するための強力なツールを数学者に与える。「無限次元へのズームアウト」という視点が旧来の概念に斬新な見方をもたらすとともに,新しい概念の発見への道筋を提供するのだ。
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著者
Emily Riehl
ジョンズ・ホプキンズ大学所属の数学者で,圏論,特に無限圏論の基礎づけを研究している。ヴェリティ(Dominic Verity)との共著「Elements of ∞-Category Theory」が2022年2月にケンブリッジ大学出版から出版された。
原題名
Infinite Math(SCIENTIFIC AMERICAN October 2021)