
巨大タンパク複合体の触媒構造を解明
X線で「歪んだ椅子」の水分解を明らかに
人工光合成実現の礎に
「地球上のほとんどすべての生物は生存に必要なエネルギーと酸素を植物の光合成に依存している。人間が利用する石油や石炭も大昔の植物から生まれたものだ」。岡山大学教授であり同大異分野基礎科学研究所所長を務める沈建仁は話す。 (文中敬称略)
光合成は光のエネルギーを使って水と二酸化炭素を材料に酸素と炭水化物を生み出すプロセスだが,多数のタンパク質や色素が関わる複雑な仕組みだ。
教科書などで「明反応」と紹介される,光合成のプロセス前半では,光エネルギーで水を酸素と水素イオン(プロトン)と電子に分解する。酸素は植物の外に放出される一方,プロトンと電子は生体エネルギーの源であるATP(アデノシン三リン酸)と還元作用を備えた物質(NADPH,ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)を作る。
光が関与しないため「暗反応」と呼ばれるプロセス後半では,ATPとNADPHの働きで二酸化炭素を炭水化物(糖)に変換する。
これまで多くの科学者が光合成の仕組みの解明に取り組んできたが,一連のプロセスの最初に起きる,光エネルギーによって水が分解される過程には大きな謎が残されていた。
沈の研究チームは水分解反応が起きる場(触媒中心)の構造を原子レベルで解明するとともに,反応が進む様子をコマ撮りで観察し,反応の全貌を明らかにしてきた。
続きは日経サイエンス2023年5月号にて