
「モラルインジャリー(道徳的負傷)」とは良心に大きく反する状況や,自身の核となる価値観を脅かす状況に直面したときに生じる特別なトラウマを指す。この問題に苦しむ人々は,罪悪感や怒り,そして自分自身や他者を許せないという痛切な感覚に苛まれる。パンデミックの救急現場や戦争はモラルインジャリーを引き起こす最たる例だが,教育の場や身近な事故で生じることも多い。
モラルインジャリー向けに考案されたセラピーでは,道徳的な観点から問題を整理し,辛い真実を受け入れるよう促す。傷つけた人への謝罪も道徳的なジレンマの解消に有効とみられる。同時に,モラルインジャリーを引き起こす問題の解決を個人に委ねるのではなく,現場で働く人たちが倫理的に仕事を行うために必要としていることを組織全体で考えなければならない。
著者
Elizabeth Svoboda
カリフォルニア州サンノゼ在住のサイエンスライター。著書に「What Makes a Hero? The Surprising Science of Selflessness」(Current,2013年)がある。
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「医療現場を蝕む心の危機」,J. モック,日経サイエンス2020年7月号
原題名
An Invisible Epidemic(SCIENTIFIC AMERICAN December 2022)
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